zames_makiのブログ

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男の意氣(1942)国策映画

=よくできた国策映画、松竹メロドラマとの移行期作 恋愛ドラマに隠して国策(会社合同)を説得する非常によくできた国策映画
戦後の松竹を代表する監督の一人で、のちに「女性映画」の名手といわれた中村登の最初期の作品。東京の回漕問屋で働く人々の義理人情が描かれている。戦中の国策映画であり、主人公(上原)の口からはライバルの回漕問屋との協力・統合の必要性(一港一社主義)が主張される。しかし、そうした主張以上に、下町の細やかな描写や掘割を美しく捉えた映像が目を惹く。
(78分・35mm・白黒)'42(松竹大船)(監)(脚)中村登(脚)吉村公三郎木下惠介(撮)齋藤正夫(美)江坂實(音)古関裕而(出)坂本武、上原謙、朝霧鏡子、木暮實千代、徳大寺伸、川崎弘子、河村黎吉、日守新一、小林十九二、藤野秀夫、大山健二、近衛敏明、川名輝

上映 NFC

2/23(日) 5:00pm 3/5(水) 1:00pm 3/13(木) 4:00pm

感想

よくできた国策映画。
大型船舶からの国内河川輸送を担うだるま船
輸送会社の経営を巡る国策会社。旧弊な父を中国帰りの息子の若旦那が直し大口輸送の受注と国策に沿った輸送会社の合併を誘導する。誘導過程が他社との競争や喧嘩など含み、戦後のヤクザ映画の題材になるような話であるが、主人公は多少殴られただけで丸く収まるのが興味深い。次女のお見合い話や、女性番頭の若旦那への恋なども筋として設定されているが、大筋は会社経営であり、松竹メロドラマに国策という外圧がかかり物語が変形した様子が窺われる。だがNFC上映の「君よ共に歌はん」などの同時期の松竹メロドラマの筋があまりに力のない不出来なものをむしろ改良されたと言うべきだろう。

あらすじ=昔がたきの父が指図するだるま船輸送会社の若旦那が中国から3ヶ月の休暇で帰る。しかし、実力のある番頭は長女と駆け落ちし父から勘当状態、父は健康を害し、女番頭が指示を出しており会社は傾いている。叔父は次女を大口顧客の息子との縁談を進めるが次女にはライバルだるま船会社の息子に恋している。若旦那は父に無断で縁談を壊す。若旦那は大口輸送の注文を破格の値で受注、破門の番頭を使い見事こなす。がライバル会社との確執高まる。ついでだるま船輸送会社の合併協議の席に病気の父の代わりに出席、大賛成の弁をうつ。旧弊な父は大反対するが次第に許すようになり、休暇が終わり中国に帰る若旦那を優しく見送る。

若旦那を上原謙が独特のいい加減さで演じているが「君よ共に歌はん」の主演男優水島亮太郎よりはるかに演技力ある。同様に坂本武、朝霧鏡子、川崎弘子も比較すればよい演技だ。これは脚本の出来のためと思われ従来松竹メロドラマが人物描写、感情描写が非常に弱く、人物はただ悩むだけだったのに対し適切に台詞が設定されているためと思われる。
 一方国策部分は上原謙は協力に主張し非常に目立つし不自然だ。だが従来の松竹ドラマに比べれば、その内容や演出はよほど適切であり、国策要請によりかえって物語が明確になり、人物の機微と全体筋立てが明確効果的になったように思われる。
 画面構成が対話部分で細かいカット割りをせず人物の後ろ姿をまま撮す場面多く演出劣る。だるま船のシーンは実際の荷運びシーンを撮影しただけでセットなどをけちり、話の説得力に欠ける。女番頭は付け足し的で役割が不明だ。大型顧客の社長はやたら柔和であり、善人ばかりの松竹メロドラマの悪しき典型である。