zames_makiのブログ

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華やかなる幻想(1943)失明傷痍軍人の再起

製作=大映(東京第二撮影所) 公開:1943.03.04 紅系 95分 白黒
監督:佐伯幸三 脚本:館岡謙之助 田口哲 音楽:大木正夫
出演:水島道太郎 月丘夢路 千明明子 上山草人 水原洋一 二葉陽子

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昭和18年3月の新聞広告(「華かなる幻想」四日ヨリ十日迄)

大映東京作品 原作:田口哲 脚色:館岡謙之助 演出:佐伯幸三
配役:北川三郎・水島道太郎、妹春子(会社員)・千明明子、土田明子・月丘夢路(以下略)
?日本ニュース 一四三号
?撃ちてし止まむ:大御稜威のもと戦へば必ず勝つ皇国三千年の伝統と信念、国民一人一人が、この輝く必勝の信念を以つて一丸となつて日夜営々たる努力を傾けつゞけて居るのである。
今や、大東亜戦争必勝の基礎牢固として成り資源の宝庫も今や我掌中、敵撃滅へ一路邁進するのみ、この秋にあたつて、東亜十億の民とともに、我等は敵米英、「撃ちてし止まむ」の古くして日に新なる感激の、神武天皇御製の御言葉を誦し奉つて一層の覚悟を固めなければならぬのである。
?物語:信州の小都会の女学校に赴任した音楽教師北川三郎は絵のように美しいこの土地がすつかり気に入つてしまつた。大工場主土田家の令嬢明子は聡明で勝気な現代女性で父の工場で職工と共に働く事を楽しみ誇りとしてゐた。新しい音楽教師北川の明るい逞しい建設的な性格は生徒達からも慕はれ父兄からも信用された。或る日校長を通して土田工場のブラスバンドの指揮を頼まれた事から明子と相知るようになり、素朴で逞しい、北川に心を惹かれる。
 併し彼は間もなく南方戦線に出征して失明して帰郷した。だが積極的な彼の性格は失明にも屈せず教師を断念して作曲家として彼の年来の宿望であつた真の日本の姿を謳つた大交響楽を作曲すべく、友人の激励や妹春子の介抱で懐かしい信州へ向つた。失明の身を不自由な点字に託し乍ら作曲に専心する彼の痛々しい姿に明子は真剣に仕事を手伝はふとするが世間の同情に甘えたくないと北川の心は彼女の校医をも容れてはくれなかつた。
 風に散る落葉、折たく柴の煙り、松を亘る風の音、彼の脳裡には万葉の歌が甦り、不詳の瞬間が閃めく、突撃の喚声、銃砲の声に混る大コーラス。大交響楽「神国顕現」は遂に完成した。やがて彼の作曲は恩師の推挙により華々しく発表された。ホールに満ちた群衆は朗唱と大管絃楽に高潮する「神国顕現」の演奏に万場は声もなく聴き惚れた。
 素晴しい演奏は終つた。万雷の拍手がしばし鳴りつゞけた。聴衆の片隅には涙ぐむ明子の姿もあつた。「北川先生・・・お目出たうございます」北川は静かに明子の手を探し求めるやうに握つた。その手には熱い愛情と深い感激の心が通つてゐた。窓には大都会の灯が二人を祝福するように拡がつてゐる。

昭和18年・讀賣報知記事「もつと失明苦を『華やかなる幻想』を鑑賞・映画を語る失明勇士」

軍事保護院の指導と後援を得て大日本映画会社が失明傷痍軍人の再起を主題として製作した?華やかなる幻想?は去る廿七日日本社講堂に東京第一陸軍病院失明傷痍軍人寮、失明傷痍軍人教育所の勇士たち百数十名に都下盲学校上級生百数十名を招いて点字讀賣主催で特別試写会を開き失明者の映画鑑賞といふ一見矛盾した主題の中に今後の失明傷痍勇士の保護指導とその方向よりする映画製作に示唆するものがある。以下当日来観の勇士の一人軍人寮の失明勇士中村牧太郎氏並に東京盲学校生徒たちの感想をきく


  中村牧太郎(失明軍人教育所師範部三年生)「私はこの映画のための座談会にも出たし筋も聞いてゐたのでよく分つたが説明なしで見たのでは分らない所が多かつたらう。特に始めの部分が悪く後半がよかつた。後半の音楽がよい。悪口をいふと失明苦が描けてゐなかった。音楽に没入して失明苦を忘れたと理解したいがあの苦しみは我々の誰もが経験するところでそこをあつさり扱つてしまつたのでは単なる音楽作品と受けとられさうだ。
 私は眼でとらへられないところは付き添ひの人から説明して貰つたが、主役が堅過ぎたという評判だつた。室内と外部の主役の動きはよく出てゐたさうである。今一つ恋愛問題があつさりさばかれてゐるのも物足らなかつた。しかし今迄の芸能の殆んどすべてが失明者を揶揄したり戯画化したりしてゐたのに人格を認めて真面目に取り上げてくれたことは嬉しかつた。かういふ映画を通して私達の再起奉公の念が分つて頂ければ一層有難いのである。」


  東京盲学校生徒(師範部三年の唐澤彦吉、二年の阿佐博氏その他にきく、いづれ全盲の生徒である)「説明が不足で分りにくかつた。台詞の説明が今少しあるとよかつた。たとへば召集令状の来る所などは付き添ひの人の話でやつと分つた始末だ。場面も早過ぎた。もつとじつくり見せて貰ひたかつた概して前半が悪く後半はいゝが音楽映画だといふので楽しんで行つたゞけ、その音楽の貧しさが気になつた。傷痍軍人の姿は受けとれたが、召集の時や別離の時など当然感激的であるべき場面が全体にあつさり扱つてあるのは物足らなかつた。」