zames_makiのブログ

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クロッシング

読売新聞(2010年4月16日)脱北が引き裂く悲劇

脱北の厳しさを生々しく伝える問題作。 引き裂かれた家族の悲劇に、胸が締め付けられる。

 北朝鮮の炭鉱で働く元サッカー選手ヨンス(チャ・インピョ)は、妻ヨンハ(ソ・ヨンファ)、11歳の一人息子ジュニ(シン・ミョンチョル=写真)と暮らしていた。貧しいけれど、心を通わせる家族がいる幸せな毎日。父子でサッカーに興じる姿には心が和む。だが、妊娠中のヨンハが肺結核に倒れ、事態は一変。薬を入手するため、ヨンスは国境を越える決意をする。気丈に父を見送るジュニの表情には、寂しさ、不安、そして、父との約束通り母を守ろうとする覚悟が見て取れる。互いを思い合う家族の前に立ちはだかる壁はしかし、あまりにも大きすぎた。中国での不法労働が発覚し、公安に追われる身となったヨンスは思いがけず韓国に亡命することに。一方、北朝鮮ではヨンハが息をひきとり、孤児となったジュニは脱北に失敗、強制収容所に入れられてしまう。

 過酷な環境の下、必死に生き抜こうとするジュニのけなげさに激しく心が揺さぶられる。キム・テギュン監督は、以前見た北朝鮮のドキュメンタリー映像で、幼い子供たちが道ばたに落ちているうどんを拾い、汚いどぶの水ですすいで食べている姿に衝撃を受けたという。子供にあんな思いをさせてはいけない。本作には、政治の暴力に対する憤りと悲しみが満ちている。脱北者もスタッフに加えて製作されたという。切実な思いが、秘密裏に撮影した映像に反映されている。(泉田友紀)

週刊金曜日(2010年4月9日号)

寺脇研の映画評掲載

中部経済新聞(2010年4月30日)

近くて遠い衝撃のリアリズム

(略)脱北者を扱った韓国映画クロッシング」を見た時は、ハリウッドの最新テクノロジーが小さくかすんでしまうくらいの衝撃を受けた。ビッグヒットではなく、韓国と日本でしか映画館上映されていないこの映画は、北朝鮮に住む親子3人の家庭を描くところから始まる。終戦直後の日本には似た貧しさがあった思わせる情景で、近くて遠い国の家族愛にほのぼのとしたものを感じているうちに、主人公の少年にすっかり感情移入してしまった。
 栄養不足で母が結核にかかり、薬を入手するために父が中国との国境を越えるが、父が帰る前に母は亡くなり、1人取り残された少年も家を出て、放浪の末に脱北を試みるわけだが、ストーリーをくわしく語らないのが映画評の常道なので、これ以上は書かない。

(略)政治的扱いを受けがちなテーマだけに、キム・テギュン監督は、3年間の取材で100人以上の脱北者に話を聞き、現実をそのまま描くことに努めたという。リアリズムを貫く一方で、作品は映像美にあふれ、それだけに登場人物の過酷な運命はあまりにも悲しい。