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「坂の上の雲」に参考になる雑誌の目次=「韓国併合」100年を問う

以下は雑誌「思想」2010年1月号の目次で韓国併合100年を特集し、日露戦争の意味を問うている。日露戦争研究の最新成果である和田春樹氏の論考もあるものでドラマ「坂の上の雲」を見る上で非常に参考になるものだ。特集全体の意図は巻頭言からわかる。

特集主旨:「韓国合併奉告祭碑」の前で考える

以下は岩波書店HPに掲載されている巻頭言より抜粋(http://www.iwanami.co.jp/shiso/index.html
「韓国合併奉告祭碑」の前で考える(水野直樹)

「韓国合併奉告祭碑」という大きな石碑が立っている。1910年当時そこで「韓国併合」を祝う行事が行なわれた(中略)大意を記すと、次のようになる。
 「わが国と韓国との関係は神代のころから始まっているが、神功皇后三韓征伐によってこれをしたがえ、秀吉が出兵して日本の強さを示した。明治維新の後、国交を結び、さらに保護国にしたが、危機の時代となったため、韓国皇帝は国土を明治天皇にゆだねることとした。天皇は東洋の安定を図るため、これを受け入れ、韓国は日本の領土となった。戦いによらず領土を広げたのは、天皇の仁徳によるものである。この偉大な業績は永遠に残るであろう。」

 神功皇后伝説を持ち出しながら、「韓国併合」を古代以来の日朝関係の当然の帰結ととらえて正当化しているのは、当時の日本人の一般的な認識を表わしている。(中略)「韓国併合」は「聖事」「聖徳大業」であることが碑文で繰り返し強調されている。


 (中略)この石碑の前に立つと、近代日本にとって、そして日本人にとって、「韓国併合」とは何だったのかを考えないわけにはいかない。(中略)仮りに日本の朝鮮支配が軍事、政治、経済などの面で、日本に利益をもたらしたと考えるとしても、それが朝鮮民衆の犠牲の上に得られた利益であったことはあらためて言うまでもない。さらに、それが歴史の中で日本自身に何をもたらしたのかを、私たちは考え直してみるべきではないだろうか。

 日清戦争にはじまり日露戦争、「韓国併合」を経る中で、日本人が大国意識、帝国意識を持つようになったことは、その後の日本の歩みを大きく制約することになったのではないか。日本は軍事大国としての歩みを、軌道修正することなく突き進んでいったといえるのではないか。


 (中略)ほとんどの日本人は大国意識にとらわれ、支配圏が広がることを歓迎した。その結果が何であったかは、いうまでもなかろう。アジア諸地域の民衆に甚大な被害をもたらしただけでなく、日本人自身も取り返しのつかない大きな損害をこうむったというのが、否定し得ない事実である。

 (中略)日本政府・軍部は「国体護持」とともに、朝鮮半島を領土として確保することにもこだわっていた。ソ連に和平交渉の仲介を依頼した際の条件がそうであり、「満洲国」に駐屯する関東軍の最終的な布陣が朝鮮半島確保を目的としたものであったことを見れば、朝鮮を日本の支配の下に置き続けることにいかに執着していたかがわかる。植民地支配への執念が戦争被害をいっそう拡大したことは、日本の民衆自身にとって不幸なことだったといわざるを得ない。

 (中略)その認識を踏まえたうえで、日本人が持ち続けてきた大国意識、帝国意識と植民地支配への執着のために、日本人自身が決して幸福ではなかったことにも、思いを致すべきであろう。

→当時の日本にとって韓国併合がどれほど大事なものであり、それを実現するために日露戦争があった事を再認識させられる。司馬遼太郎のように日露戦争を単に大国となるための過程としてだけ捉え、それが勝った戦争だったから良しとしてしまう見方は歴史を捉える上で根本的におかしい。「坂の上の雲」の中で日本の朝鮮支配について触れない司馬遼太郎は太平洋戦争がなぜ起きたかを理解していないと言うべきだろう。

特集「韓国併合」100年を問う(雑誌「思想」2010年1月号)目次

日本史認識のパラダイム転換のために─「韓国併合」100年にあたって― 宮嶋博史 (6)
東学農民軍包囲殲滅作戦と日本政府・大本営日清戦争から「韓国併合」100年を問う― 井上勝生 (26)
韓国軍人の抗日蜂起と「韓国併合」 愼 蒼宇 (45)
伊藤博文の韓国統治と朝鮮社会─皇帝巡幸をめぐって― 小川原宏幸 (63)
武断政治と朝鮮民衆 趙 景達 (82)
内務官僚と植民地朝鮮 松田利彦 (100)
植民地期の政治史を描く視角について─体制の内と外,そして「帝国日本」― 岡本真希子 (119)
韓国併合」と古代日朝関係史 李 成市 (138)
江戸時代 民衆の朝鮮・朝鮮人観─浄瑠璃・歌舞伎というメディアを通じて― 須田 努 (151) ●
近世日本と東アジア─「東アジア法文明圏」の視界― 深谷克己 (170)
明治初期の日朝関係と征韓論 吉野 誠 (188) ●
今日における関東大震災朝鮮人虐殺の国家責任と民衆責任 山田昭次 (204) ●
日韓会談反対運動と植民地支配責任論─日本朝鮮研究所の植民地主義論を中心に― 板垣竜太 (219)
韓国併合100年と日本人 和田春樹 (239) ●