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森繁久彌の従軍体験

朝日新聞朝刊 2009年12月3日 読者のおたより欄
森繁2等兵、歌唱で人気者に

敗戦の色濃い昭和19年も押し詰まった頃、旧満州では対ソ戦に備え「根こそぎ動員令」が発令された。召集猶予の恩典を受けていた判事や検事、大学教授ら錚々たるお歴々が召集された。中に新京(現在の長春)の放送局アナウンサーだった森繁久弥さんがいた。彼は2等兵として、私のいた関東軍総司令部直属の特殊無線情報隊に入隊した。
 長身の彼は、貴公子然とした中にもの柔らかな雰囲気があった。持ち前の歌唱力で中隊の人気者にもなった。軍隊でも下級兵士としておくにはもったいない実力と見識を備えていた。部隊長が「幹部候補生に志願せよ」と声をかけたが、彼は断固拒否した。
 「もし」が許されるとして、彼が将校に登用されていたら、南方戦線に駆り出されるか、シベリア抑留の憂き目にあって、その後の「森繁久弥」はなかったかもしれない。
 彼は半年の軍務を終え、翌年4月に営門を後にした。夜来香の花咲く頃であった。