zames_makiのブログ

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<ガザ攻撃に関するBBCの報道は中立なのか?>

BBCのガザ攻撃に関する報道姿勢は中立と言えるのだろうか?
 以下に紹介するのはBBCの中立性を疑う報道記事だ、今回問題になっているのはBBCの報道そのものではなく、救援金をつのるNPOのCMをBBCで放送するか否かで、BBCパレスチナへの救援金を募るCMを放送することは自身の中立性を視聴者に疑わせる事になるからと拒否した。BBCは大変な自信をもって放送しないとしており、BBC自身がこれに関する討論を放送している。イギリスの多数の市民、国会議員、英国教会の高位聖職者、IAEA長官などの抗議にあってもその頑な姿勢を変えていない。


 だがここで問題にしたいのは、そもそも通常流すBBCのニュースは中立なのかだ。ネットでは日本のメディアへの批判が多いが、こうした他国の事を考えるのは日本人にとっても参考になるだろう。

(前提条件:BBCは最も中立に近い)

 NHKの流す「ワールドニュースアワー」を見れば、今回のイスラエルのガザ攻撃についてはBBCの流す情報が圧倒的に多く又詳しいことがわかる。これはその他の国(独ZDF、仏F2、米CNN、ABC、ロシアRTF、中国CCTV、韓国KBSなど)に比べてである。もちろんそこでは番組枠内にどこの国のどのニュースを流すかというNHKの選択が関わっている。しかしニュース継続的に見れば、そしてTBS、テレ朝、日本テレビ、フジテレビなど日本の状況を見れば、同じ題材を扱ったニュースではやはりBBCの扱う長さ、詳しさ、中立性で優れているように思える。
 仏F2や独ZDFについて言えば視点が独特で問題の全体を伝えていない、米のテレビは扱いが小さく攻撃があったことしか伝えず、そういう寡黙さの中でイスラエル寄りだ。日本のテレビではTBSが積極的だが扱う量は少ないし、他ではほとんど扱わない。これらの外国テレビ局のガザ攻撃に関する報道をたくさん見れば、やはりBBCはそれらの中では中立に「相対的に最も近い」と感じられるのは納得できるだろう。
 ここで特にアラブ系のテレビであるカタールアルジャジーラTV(NHKは「アジアクロスロード」の中で流している)と比較しても、BBCはそう大きな差がない。以下はこうした一応の前提でBBCの中立を問う。

BBCの報道の中身、それは中立か)

 確かにBBCハマスをテロリストとは呼ばず、イスラム原理主義とも呼ばない、この点では日本の大新聞よりはるかにパレスチナよりだ。またハマスファタハの情報も扱う、そしてパレスチナの被害を詳しく報じている。又アメリカや他の中東諸国の様子も流す。こうした点で中立だろう。だが一方でイスラエルの情報も非常に多い。
 (1)まず問題は、ガザの状況に際しては、ハマスが市民の意思を無視して強制的にガザを支配しているのではないか、被害を無理に宣伝しているのではないか?という問いを投げかける事もやっていた事だ(特に攻撃初期)。こうした視点は攻撃が起きているがガザにBBC取材班が入れない状態では常に維持されていた。


 (2)次に目立ったのはハマスのロケット弾攻撃の様子(実際にはイスラエルの流した壊れた家の様子)を非常に多く流していた事だ。パレスチナ人の被害を伝えた後には必ずハマスのロケット弾で壊れたイスラエルの家の様子(あるいはリブニ外相のハマス非難の主張)を流すのがBBCの「ガザ攻撃報道の規則」になっていたように思える。実はこれはNHKなどの日本のテレビでもあまりないことで、この点でBBCは中立ではなくイスラエル寄りと言える。これを見た視聴者がもし両者が対等の戦争をしていると取ったなら(その可能性は大きいだろう)、これはある意味でBBCイスラエル応援のプロパガンダになっているという事に他ならない。

 日本人はこのBBCのやり方が本当の意味で公平・公正ではないのを実感的に良く知っている。BBCパレスチナ人の被害とイスラエルの被害をセットで流す様子は、日本での「刺客」報道にそっくりだからだ。日本のテレビは、ある選挙区に立候補する有名人の刺客について華々しく取り上げた後で、その選挙区に立候補するほかの候補者の顔写真と名前を付け足しのように短く伝える事をよくやる。
 BBCのやっているのはこれにそっくりで、日本人から見てこれは「見せかけの公平さ」でしかないのは自明だ。いやBBCの場合むしろそこでは後者のイスラエルの報道量がけして短くないものだったかもしれない。振り返れば、今回の攻撃でイスラエル側の死者は13人で主に初期の戦闘で出たものであり、実際にはイスラエルの人的被害はほとんどなかった、少なくとも毎日伝えるだけの情報量はまったくない事を考えとBBCのこの「報道規則」は相当おかしなものと言うべきだろう。視聴者の受け取り方にもよるが、これは見かけ上は公平、心ではパレスチナ寄りと言うべきように思う。ただ問題意識によってはイスラエル寄りとも言える。

 これについてはNHKBBCを批判しているように感じられる。NHKBBCの放送を「ワールドニュースアワー」の枠内で流すだけでなく、「きょうの世界」など自らの放送枠の中でもよくそのまま引用している。それは動画を利用するのではなくそのまま流している場合が多い。そこで時として起きるのはBBC放送がパレスチナの惨状に加えてイスラエルの言い分や被害ともいえない損害状況を伝える部分を、NHKがカットすることだ。これは放送時間の都合のためかもしれないが、同時にBBCに対するNHKの評価を示しているようにも思われる。


 (3)そして更に問題なのは、攻撃の目的や和平合意に関する報道など政治的な動きを伝える上では、圧倒的にイスラエルの情報が多いことだ。イスラエルの攻撃の目的は毎回かならず「ハマスのロケット弾攻撃のため」と報じられる、一方ハマスの攻撃の言い分「イスラエルの占領と封鎖への抵抗のため」はまったくと言ってよい位報道されない。また、その占領と封鎖の状況を裏付ける報道もBBCは行っていない。

 2009年になって封鎖については、双方の一方的な停戦が行われメディアのガザへの入域が部分的に可能になった後に、支援物資などがガザへ入れないことが報じられたが、その後はなくなってしまった。しかし今も封鎖は続いているのに。これでもし次にハマスがロケット弾を放ったとき、BBCは「こんな風にイスラエルの封鎖が続いています、だからハマスはロケット弾を撃ったと主張しています」と流すとは思えない。これではハマスにとって政治的な自らの主張が視聴者に伝えられていない訳で不公正だ。


 (4)更に、そもそも2008年暮れにイスラエルの攻撃が始まった時も、ガザはこんな風に「占領・封鎖されてきました」という報道はまったくなかった。従ってハマスの「イスラエルの占領・封鎖があるから攻撃するんだ」という主張は、イスラエルの攻撃開始時には「テレビ的」にはまったく伝えられていなかった。こうした事を評価すればBBCの報道は中立ではなくイスラエル寄りだ、と言わざるを得ない。


 (5)こうした事は表面的な放送時間の長さではなく、視聴者の受ける印象の問題であり、分析の必要な微妙な問題だろう。しかし今回ガザへの救援金を募るNPOの広告を断ったBBCは、それが「パレスチナ寄りに見えるから」としており、BBCの放送が視聴者にどのように受け止められるかを「分析」している。
 だがもしBBCが真面目に自らの放送を分析するなら、イスラエルの徹底的な破壊や殺戮とハマスのロケット弾の報道が釣り合うかのように報道するBBCの報道姿勢が、到底公平・中立とは言えないという結論になろう。最も視聴者にインパクトのある・深い印象を残す攻撃の間、ひつこくパレスチナ側のロケット弾攻撃を報じてきたBBCは、自らの報道をどう分析してそれが中立だと言えるのだろうか?NPOのCMだけについて視聴者の受け止め方を分析し、それ以外は問題にしないのはまったく中立とはいえないだろう。

(結論:また日本ではどうか)

 BBCは「ガザの封鎖と占領の過酷さ」を、ニュースとしてはほとんど伝えてこなかったし、一応の停戦状態にある今もほとんど伝えない。BBCは豊かな資金と多くのスタッフを抱え、豊富な知識と資源を有する大テレビ局だ。彼らは長年の報道経験でパレスチナ問題をよく理解してるはずだ。更にイスラエルアメリカの立場に偏らない中立への意識を強く持っている、BBCは本来は報道の公正さ・中立性に大変意識が高くそれを目指しているはずだ。

 だがそれなのに大テレビ局の流すそのニュースは、結局その日に起きた被害(出来事)だけを伝える、非常に近視眼的なものであり、中立性も必ずテーマを2つ示すという程度の低いレベルの見せ掛けの中立でしかないのではないか?そこでやっているのは結局目の前で、「その日に起きたことだけ」を伝えてよしとする政治的な情報を伝える意味を深く考えない姿勢であり、それは本当の公平さとは言えないだろう。
 こうしたテレビメディアの傾向はもちろんそのテレビ局の政治的な姿勢(日本ではフジテレビなどがよい例だ)もあるが、目の前の事に引きずられてしまうテレビメディアの習性のようなものかもしれない。


 最後に、上記で指摘したBBCの中立への疑いは、実はそのままNHKにもあてはまることだ。NHKはたしかにパレスチナの被害を大きく伝えるが、なぜ紛争がおきたかについては何も伝えないという状況はBBCと同等かそれ以下かもしれない。
 何にせよ、イスラエルのガザ攻撃報道に関する、BBCの中立性そして同じくNHKの中立性、それは大変怪しいというべきだろう。




−−−−(以下BBCの中立を疑う記事)−−−−−−

ガザ支援で英BBCに批判 中立を盾、募金運動伝えず(共同通信 2009/01/26)

 【ロンドン25日共同】英BBC放送が報道機関の「中立性」を盾に、パレスチナ自治区ガザへの支援金要請運動をニュース番組などで取り上げない方針を決めたことに批判が集中、市民による抗議デモのほか、現職閣僚が再考を促す異例の事態になっている。

 支援金要請運動は、イスラエル軍に破壊されたガザの家屋再建費用などを募るため英国の13の慈善団体が共同で計画した。

 BBCはイスラエルパレスチナという2つの当事者がある中、パレスチナ側への支援金要請だけを取り上げれば、報道機関としての中立性が損なわれるとして放映しないことを決定。

 これに対して「人道支援と政治問題をはき違えている」との批判が起こり、アレグザンダー国際開発相がBBCトップに見直しを求める書簡を送付。英ITVなどテレビ各局も放映を決め、BBCの孤立ぶりが目立つ。

 BBC側は「戦争と自然災害による被害は違う」と正当性を主張しているが、25日付の英各紙は「ガザの子どもたちにはわれわれの支援が必要だ」(サンデー・テレグラフ)「もし今後放映を決めれば政治圧力に屈したとみなされる」(オブザーバー)と批判のトーンを一段と強めている。

IAEAエルバラダイ事務局長、BBC会見を拒否(毎日新聞 2009年1月31日)

 【ウィーン中尾卓司】国際原子力機関IAEA)のエルバラダイ事務局長は、英公共放送BBCがパレスチナ自治区ガザ地区住民への人道支援を募る慈善広告の放映を拒否したことに抗議し、約束していたBBCとのインタビューを拒否した。IAEA広報官が28日明らかにした。BBCは「報道の中立性を保つため」などとして、英国の人道支援組織が製作した救援金を募る慈善広告の放映を拒否。これに対しIAEAの広報官は「事務局長は人道上のルールに反すると判断した」と説明している。

BBCの報道姿勢にガザで抗議の声(al-Quds al-Arabi紙 2009年01月29日)

 大学、メディア関係者ら、BBCにガザからの退去を要請〜クドゥス・アラビー紙(イギリス)HP1面【ガザ:アシュラフ・アル=ハウル(本紙)】
 大学、メディア関係者、外国人活動家、市民団体メンバーなどは、英BBC放送にガザからの即時退去を要請、(BBCの)外国人特派員らに同地から出るよう呼びかけた。

 木曜、ガザのBBC事務所前で抗議行動を組織した大学関係者らは、イスラエルによる占領とガザで犯された犯罪行為について、英国放送協会が偏向した見方をしているとみなし、中立を建前としてガザ戦争犠牲者の救いを求める声を報道しなかったその姿勢を批判した。

 ガザ大学教員協会スポークスパーソンは次のように述べる。「(中立という)この口実は嘘だ。アフガニスタン殲滅戦争、イラク占領の際の(BBC)の中立は疑わしい。南アフリカで白人が黒人に対して犯罪行為を犯した時、確かにそれは沈黙していた。彼らのレポートは、ガザ周囲に駐屯するイスラエル戦車の上から行われた」

 抗議行動に参加した人々は、3名のBBC外国人特派員に対しガザからの即時退去を要請し、従わない場合は犠牲者たちの靴を持って彼らを追い立てると脅した。彼らは偏向しており嘘を報道し、イスラエル占領に益するレポートを行ったとみなす上記スポークスパーソンは、「この人々は子供達の血で記事を書いている」と述べた。

 BBC総裁マーク・トムソンは中立を標榜することにより嘘をついているとして、抗議行動の参加者たちは、BBCとその経営陣を批判、「BBCはガザから出て行け、BBCをボイコットしよう」等のスローガンを叫んだ。

 英国人運動家は、自国に対し、占領支援、イスラエルへの投資を止め、イスラエルをボイコットすべきと主張。同国人に対しては、パレスチナの人々と連帯し、BBCの立場を拒否すべく街頭運動を行うよう呼びかけた。また、彼女自身も含め多くの外国人活動家たちが、ガザでの占領軍による犯罪行為を目撃しており、1300人の死者と未だ苦痛にあえぐ5400人の負傷者、破壊された数百の家屋や工場を残した人道に対する醜悪な犯罪の証人であると述べた。

 また、大学教授アスアド・アブー・シャルハは次のように述べた。「BBCはガザ戦争の協力者になった。中立を守る者が、犠牲者の助けを呼ぶ声を無視するだろうか?」「占領軍は生きているものを殺すばかりではなく、墓場まで追っていき墓地を爆撃した。大学、病院、UNRWAを攻撃した。それをBBCは報道したか?パレスチナの人々の権利、帰還の権利、パレスチナ占領の経緯における英国の役割については何もレポートしない」

 同教授によれば、BBCは、テレビカメラの枠外にいたイスラエル戦争犯罪者たち、ガザをホロコーストより酷い火葬場にすると脅した連中を断罪すべきであったのに、そうではなく、この火葬場の犠牲者たちの叫びを黙殺するような行為に出た。