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田母神自衛隊航空幕僚長論文に対する社説

空幕長更迭―ぞっとする自衛官の暴走入試「裏基準」(2008年11月2日・朝日新聞

 こんなゆがんだ考えの持ち主が、こともあろうに自衛隊組織のトップにいたとは。驚き、あきれ、そして心胆が寒くなるような事件である。 田母神(たもがみ)俊雄・航空幕僚長が日本の植民地支配や侵略行為を正当化し、旧軍を美化する趣旨の論文を書き、民間企業の懸賞に応募していた。 論文はこんな内容だ。 「我が国は蒋介石により日中戦争に引きずり込まれた被害者」「我が国は極めて穏当な植民地統治をした」「日本はルーズベルト米大統領)の仕掛けた罠(わな)にはまり、真珠湾攻撃を決行した」「我が国が侵略国家だったというのはまさに濡(ぬ)れ衣(ぎぬ)である」――。 一部の右派言論人らが好んで使う、実証的データの乏しい歴史解釈や身勝手な主張がこれでもかと並ぶ。 空幕長は5万人の航空自衛隊のトップである。陸上、海上の幕僚長とともに制服の自衛官を統括し、防衛相を補佐する。軍事専門家としての能力はむろんのこと、高い人格や識見、バランスのとれた判断力が求められる。 その立場で懸賞論文に応募すること自体、職務に対する自覚の欠如を物語っているが、田母神氏の奇矯な言動は今回に限ったことではない。 4月には航空自衛隊イラクでの輸送活動を違憲だとした名古屋高裁の判決について「そんなの関係ねえ」と記者会見でちゃかして問題になった。自衛隊の部隊や教育組織での発言で、田母神氏の歴史認識などが偏っていることは以前から知られていた。 防衛省内では要注意人物だと広く認識されていたのだ。なのに歴代の防衛首脳は田母神氏の言動を放置し、トップにまで上り詰めさせた。その人物が政府の基本方針を堂々と無視して振る舞い、それをだれも止められない。
 これはもう「文民統制」の危機というべきだ。浜田防衛相は田母神氏を更迭したが、この過ちの重大さはそれですまされるものではない。 制服組の人事については、政治家や内局の背広組幹部も関与しないのが慣習だった。この仕組みを抜本的に改めない限り、組織の健全さは保てないことを、今回の事件ははっきり示している。防衛大学校での教育や幹部養成課程なども見直す必要がある。 国際関係への影響も深刻だ。自衛隊には、中国や韓国など近隣国が神経をとがらせてきた。長年の努力で少しずつ信頼を積み重ねてきたのに、その成果が大きく損なわれかねない。米国も開いた口がふさがるまい。 多くの自衛官もとんだ迷惑だろう。日本の国益は深く傷ついた。 麻生首相は今回の論文を「不適切」と語ったが、そんな認識ではまったく不十分だ。まず、この事態を生んだ組織や制度の欠陥を徹底的に調べ、その結果と改善策を国会に報告すべきだ。

空幕長更迭 立場忘れた軽率な論文発表(2008年11月2日・読売新聞)

 航空自衛隊のトップという立場を忘れた、極めて軽率な行為だ。政府は、「我が国が侵略国家だったというのは濡(ぬ)れ衣(ぎぬ)だ」などとする論文を発表した田母神俊雄航空幕僚長を更迭した。麻生内閣も、「植民地支配と侵略によって、アジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えた」として反省と謝罪を表明した1995年の村山首相談話を踏襲している。浜田防衛相は、「政府見解と明らかに異なる意見を公にすることは、航空幕僚長として、大変不適切だ」と更迭の理由を述べた。当然だろう。論文の内容が判明した直後、迅速に人事を断行したのは、国会審議や近隣諸国との関係に及ぼす悪影響を最小限に抑える狙いもあったとみられる。論文は、民間企業の懸賞論文に応募したものだ。戦前の日本による植民地支配や昭和戦争について、一貫して日本の立場を正当化しようと試みている。日中戦争については、「我が国は蒋介石により引きずり込まれた被害者」と主張している。だが、戦争全体を見れば、日本の侵略だったことは否定できない。日米戦争の開戦も「アメリカによって慎重に仕掛けられた罠(わな)」と決めつける。論文は、事実誤認や、歴史家の多くが採用していない見方が目立っており、粗雑な内容だ。
 もとより、歴史認識というものは、思想・信条の自由と通底する面があり、昭和戦争に関して、個々人がそれぞれ歴史認識を持つことは自由である。しかし、田母神氏は自衛隊の最高幹部という要職にあった。政府見解と相いれない論文を発表すれば重大な事態を招く、という認識がなかったのなら、その資質に大いに疑問がある。論文には、集団的自衛権が行使できないとする政府の憲法解釈や自衛隊の武器使用の制約など、重要な問題提起も含まれている。だが、この論文の文脈の中で主張しても、説得力を持たない。こうした問題の多い論文の発表を、なぜ、だれもチェックできなかったのか。これでは、自衛隊に対する国民や諸外国の信頼が揺らぎかねない。
 防衛省は、今回のような事態の再発を防ぐには、制服組の自衛官の教育と人事管理を強化する必要がある。政治の文民統制シビリアンコントロール)のあり方も問われかねない。

空幕長更迭 トップがゆがんだ歴史観とは(2008年11月2日・毎日新聞

 航空自衛隊のトップがゆがんだ歴史認識を堂々と発表する風潮に、驚くばかりだ。「我が国が侵略国家だったなどというのは正に濡(ぬ)れ衣(ぎぬ)である」などと主張する田母神(たもがみ)俊雄・航空幕僚長の論文である。政府がただちに更迭を決断したのは当然である。政府は戦後50年の95年8月15日、当時の村山富市首相が、戦前の植民地支配と侵略について「国策を誤り」「アジア諸国の人々に多大な損害と苦痛を与えた」とし、「痛切な反省」と「心からのおわび」を表明した。歴代政府は、この村山談話を踏襲してきた。田母神氏の論文は、この政府見解を真っ向から否定するものだ。旧満州朝鮮半島の植民地支配を正当化し、「大東亜戦争」を肯定する内容で貫かれている。同時に、憲法が禁止している集団的自衛権の行使や、武器使用の制約などを「東京裁判のマインドコントロール」と批判している。
 こうした認識を公表して悪びれない人物がなぜ空自の最高幹部に上り詰めたのか。大いに疑問である。田母神氏は安倍政権の昨年3月に空幕長に就任し、福田政権の今年4月には、イラクでの空自の活動を違憲と判断した名古屋高裁の判決について、お笑いタレントの言葉を引用して「そんなの関係ねえ」と語り、物議をかもした。自衛隊内では、政治や安全保障に関してストレートな発言を繰り返していたことで知られていたという。このような人物がトップの組織では、同様の考えを持つ人が多数を占め、正論と受け止められているのではないかとの疑念がわく。同氏を空幕長に据え、今回の事態を招いた政府の判断に文民統制シビリアンコントロール)の機能不全を感じ、同氏を昇進させた防衛省に体質的な問題を覚える国民は多いに違いない。また、同氏の言動を許してしまった政治の現状も指摘せざるを得ない。
 歴史認識をめぐっては、過去、閣僚が植民地化や侵略を合理化する発言をし、辞任する事態が繰り返されてきた。麻生太郎首相も自民党政調会長だった03年、日韓併合時代の「創氏改名」について「朝鮮の人たちが名字をくれと言ったのが始まりだ」と語ったことがある。一方、安倍晋三元首相は、首相就任後に村山談話を踏襲する考えを表明したが、就任前は「適切な評価は歴史家に任せるべきだ」と、日本の戦争責任への明言を避けていた。首相就任前後の落差を本音と建前の使い分けと受け取る国民は多かった。
 こうした政治家の姿勢や言動が、問題の背景にあるのではないだろうか。今回のような事態を避けるには、文民統制の強化が必須である。現在、自衛隊統合幕僚長、陸海空の幕僚長人事は閣議の了承事項である。これらの人事決定に国会が関与する道を探るのも一策であろう。

空幕長更迭事件と政府の姿勢(2008年11月6日・産経新聞コラム正論)

【正論】東京大学名誉教授・小堀桂一郎 
 ≪到底黙視し得ない事態≫1日付本紙の第1面で航空幕僚長田母神俊雄氏の更迭が報じられた。理由は田母神氏がある民間の雑誌の懸賞募集に応募し、最優秀作として掲載される予定の論文が、所謂(いわゆる)「過去の歴史認識」に関して従来政府のとつてきた統一見解と相反する、といふことの由である。この件に関しての高橋昌之記者の署名入り解説は適切であり、2日付の「主張」と合せて結論はそれでよいと思ふのだが、一民間人としても到底黙視し得ない事態なので敢へて一筆する。田母神氏の論文を掲載した雑誌は間もなく公刊されるであらうが、筆者は既に別途入手して全文を読んでゐる。それに基づいて言ふと、本紙に載つた「空幕長論文の要旨」といふ抄録も、全文の趣旨をよく伝へてをり、大方の読者はこの「要旨」によつて論文の勘所を推知して頂(いただ)いてよいと考へる。
 田母神論文を一言で評するならば、空幕長といふ激職にありながら、これだけ多くの史料を読み、それについての解釈をも練つて、四百字詰め換算で約18枚の論文にまとめ上げられた、その勉強ぶりにはほとほと感嘆するより他のない労作である。


 ≪栗栖事件に連なるもの≫その内容は、平成7年の大東亜戦争停戦50周年の節目を迎へた頃から急速に高まり、密度を濃くしてきた、「日本は侵略戦争をした」との所謂東京裁判史観に対する反論・反証の諸家の研究成果をよく取り入れ、是亦短いながら日本侵略国家説に真向からの反撃を呈する見事な一篇(いっぺん)となつてゐる。筆者は現職の自衛隊員を含む、若い世代の学生・社会人の団体に請はれて、大東亜戦争の原因・経過を主軸とする現代史の講義を行ふ機会をよく持つのだが、これからはその様な折に、この田母神論文こそ教科書として使ふのにうつてつけであると即座に思ひついたほどである。ここには私共自由な民間の研究者達が、20世紀の世界史の実相は概(おおむ)ねかうだつたのだ、と多年の研究から結論し、信じてゐる通りの歴史解釈が極(ご)く冷静に、条理を尽して語られてゐる。そして、さうであればこそ、この論文は政府の見解とは対立するものと判断され、政府の従来の外交姿勢を維持する上での障害と看做(みな)されて今回の突然の空幕長解任といふ処置になつたのであらう。1日付の本紙は、歴史認識についての発言が政府の忌諱(きき)にふれて辞任を余儀なくされた、昭和61年の藤尾氏、63年の奥野氏を始めとする5人の閣僚の名を一覧表として出してをり、これも問題を考へるによい材料であるが、筆者が直ちに思ひ出したのは昭和53年の栗栖統幕議長の更迭事件である。現在の日本の憲法体制では一朝有事の際には「超法規的」に対処するより他にない、といふのが、国家防衛の現実の最高責任者であつた栗栖氏の見解で、それはどう考へても客観的な真実だつた。栗栖氏は「ほんたう」の事を口にした故にその地位を去らねばならなかつた。その意味で今回の田母神空幕長の直接の先例である。


 ≪村山談話は破棄すべし≫我々が「真実」だと判定する田母神論文と相容(あいい)れないといふのなら、政府の公式見解は即(すなわ)ち「虚妄」といふことになる。実にその通りである。政府見解の犯してきた誤謬(ごびゅう)の罪も中曽根、細川両首相があれは侵略戦争だつたと言明して以来の長い歴史を経てゐるが、決定的な罪過(ざいか)は平成7年の村山富市談話である。あの年の夏、国会による過去の戦争についての謝罪決議といふ、世界史上未曾有の愚行がすんでの所で実現しかかつたのを、国民運動による506万人分といふ数の決議反対署名を以て辛うじて阻止した。すると村山首相がまさに民意の裏をかく卑劣な手管を弄し、総理大臣談話といふ形で謝罪決議が目指した効果の一半を果すの挙に出た。それ以来、内閣が交替する度毎に、歴代首相は政府の歴史認識村山談話を踏襲すると宣言しては、外交上の自縄自縛状態に閉ぢ籠り続けた。この閉塞(へいそく)状態を打開してくれる尖兵(せんぺい)として我々が期待をかけた安倍晋三氏もそれを敢行してくれなかつたし、今度の麻生太郎氏も、田母神論文を排して村山談話に与(くみ)するといふ選択をはつきりと見せつけてしまつた。この選択の誇示によつて、懸案の同胞拉致も領土問題も、靖国神社公式参拝問題も全て、国民の期待と希望を大きく裏切つて又しても解決が遠のく。国民の名誉と安全が脅かされてゐる事態は解消しない。然し田母神氏の更迭事件は我々に或る大きな示唆を与へてゐる。即ち、今や村山談話の破棄・撤回こそが、国民の安全にとつての最大の政治的懸案となつたのである。(こぼり けいいちろう)

田母神空幕長の解任は当然(2008年11月3日・日経新聞)

 田母神(たもがみ)俊雄航空幕僚長の解任は当然である。自衛官が心のなかでどのような思想・信条を持とうと自由だが「日本が侵略国家だったとはぬれぎぬ」とする田母神氏の論文はウェブ上で公開されている。内容は政府見解に反する。放置すれば、政治家による軍の統制(シビリアンコントロール)に抵触する結果にもなったろう。田母神氏を最優秀賞にした懸賞論文を企画した企業のウェブサイトには田母神氏を空幕長であると明記している。浜田靖一防衛相が「政府の見解と大きく異なり、不適切だ」と語り、麻生太郎首相が「もし個人的に出したとしても今は立場が立場だから適切じゃない」と述べ、解任したのは、適切な判断である。昨年の守屋武昌前次官の汚職海上自衛隊の一連の事件、事故など防衛省の各組織内で不祥事が続くなかで航空自衛隊だけは、最近は大きな問題が起きていなかった。内部では「空自の最大の問題は空幕長」と冗談まじりで語られていた。田母神氏は過去にも周囲を心配させる言動を重ねてきた。名古屋高裁イラク派遣部隊の多国籍軍兵士輸送を違憲と判断をしたのに対し「そんなの関係ねえ」とタレントのギャグを使って反応した。東大五月祭での討論に招かれて参加し、やはり防衛省の首脳部を心配させた。
 田母神氏にすれば、今回の論文を含めてすべてが自身の信念に基づくものなのだろう。三自衛隊には四文字熟語を重ねてそれぞれの体質を冷やかす表現がある。陸は「用意周到・優柔不断」、海は「伝統墨守・唯我独尊」、空は「勇猛果敢・支離滅裂」がそれである。これが当たっているとすれば、田母神氏は典型的な航空自衛官だったのかもしれない。田母神氏は空自のエリートコースである戦闘機パイロット出身ではない。同期には「将来の空幕長・統合幕僚長」ともいわれたパイロット出身者がいたが、なぜか失速した。このために本来は適格とは思われていなかった田母神氏が選ばれた。守屋前次官が権勢を振るっていた時代である。防衛省史には今回の騒動も守屋時代の負の遺産と書かれるのだろうか。

空幕長更迭 首相の認識も聞きたい(2008年11月2日・東京新聞

 侵略を正当化する偏った歴史観を持つ人物が空自トップを務めていた。論文にまでしたのは確信的な行為だ。更迭は当然だが内外の信頼を損ねた。最高指揮権を持つ首相の歴史認識を聞いておきたい。防衛省の綱紀の緩みを象徴する事件が起きた。航空自衛隊トップの肩書を持つ田母神俊雄航空幕僚長が政府見解を真っ向否定する論文を世に問うた。「わが国が侵略国家だったというのはぬれぎぬ」「日本政府と日本軍の努力で現地の人々は圧政から解放された」などと、侵略や植民地支配を正当化した。一方で「自衛隊は領域の警備もできない、集団的自衛権も行使できない、がんじがらめで身動きできないようになっている」と、暗に集団的自衛権行使を求める主張もした。政府は一九九五年の村山首相談話で「植民地支配と侵略でアジア諸国の人々に多大の損害と苦痛を与えた」と、侵略を明確に認めて謝罪、歴代政権も踏襲している。個人がどのような歴史認識を持とうが自由である。しかし、武装実力組織を指揮し、その発言が対外的にも責任を伴う立場にある自衛隊首脳が、政府見解に反する主張を論文という形で勝手に訴えるのは不見識極まりない。集団的自衛権行使に関しても、政府の憲法解釈で禁止されていることへの不満がうかがえる。制服組が軽々しく言及すべきことではない。文民統制を逸脱しているのは明らかだ。浜田靖一防衛相は即座に更迭を決めた。今のところ中国、韓国側の反応は冷静なようだが、この問題が蒸し返されることがあれば、良好になりつつある関係もおかしくなるだろう。アジアの人々から日本人の歴史観に疑念を抱かれることがあっては、先人たちの苦労が水の泡になる。
 麻生太郎首相は先の訪中で中国メディアに村山談話踏襲の意向を説明している。田母神論文は「適切でない」と語ったが、適切でないのはその中身かどうか、ぜひ確認しておきたい。麻生内閣には、歴史問題に絡んだ発言で過去に物議を醸した中川昭一財務相もいる。この問題に対する首相の処理が早かったのは、事態を重視した表れで妥当だった。しかし野党は政権の体質がにじみ出た事件だとして、国会で徹底追及する構えだ。首相は今後禍根を残さないよう、明確なメッセージを発信してけじめをつけるべきではないか。

田母神論文に対する批判の声(東京・毎日・朝日)

東京新聞・2008年11月1日)
「小学校、中学校から勉強し直した方がいいのでは」と都留文科大の笠原十九司(とくし)教授(日中関係史)は話す。空幕長の文章は旧満州について「極めて穏健な植民地統治」とするが、笠原教授は「満州事変から日中戦争での抗日闘争を武力弾圧した事実を知らないのか」と批判。「侵略は一九七四年の国連総会決議で定義されていて、日本の当時の行為は完全に当てはまる。(昭和初期の)三三年にも、日本は署名していないが『侵略の定義に関する条約』が結ばれ、できつつあった国際的な認識から見ても侵略というほかない」と説明。「国際法の常識を知らない軍の上層部というのでは、戦前と同じ。ひどすぎる」と話す。

「レベルが低すぎる」と断じるのは纐纈厚・山口大人文学部教授(近現代政治史)。「根拠がなく一笑に付すしかない」と話し「アジアの人たちを『制服組トップがいまだにこういう認識か』と不安にさせる」と懸念する。


「日本の戦争責任資料センター」事務局長の上杉聡さんは「こんなの論文じゃない」とうんざりした様子。「特徴的なのは、満州事変にまったく触れていないこと。満州事変は謀略で起こしたことを旧軍部自体が認めている。論文は『相手国の了承を得ないで一方的に軍を進めたことはない』というが、満州事変一つで否定される」と指摘する。


文民統制揺るがす:小林節・慶応大教授の話 田母神論文は、民族派の主張と同じであまりに稚拙だ。国家と軍事力に関する部分は、現職の空自トップが言っていい範囲を明らかに逸脱した政治的発言で、シビリアンコントロール文民統制)の根幹を揺るがす。諸国に仕掛けられた戦争だったとしても、出て行って勝とうとしたのも事実で、負けた今となって「はめられた」と言っても仕方がない。現在の基準や戦争相手国の視点で見れば、日本がアジア諸国を侵略したのは間違いのない事実だ。世界史に関する“新説”を述べるのは自由だが、発表の場にも細心の注意を払い、学問的に語るべきだ。


一行一行、辞職に値:水島朝穂早大教授の話 航空自衛隊イラク空輸活動を違憲とした名古屋高裁判決に「そんなの関係ねえ」という驚くべき司法軽視の発言をした空幕長とはいえ、閣僚なら一行一行が辞職に値するような論文で、アジア諸国との外交関係を危うくするのは間違いない。自衛隊法は自衛官に政治的な発言を過剰なまでに制限し、倫理規程は私企業との付き合いも細部にわたって規制している。内容のひどさは言うまでもないが、最高幹部が底の抜けたような政治的発言をして三百万円もの賞金をもらうのは資金援助に近い。


毎日新聞・2008年11月1日)
とんでもない妄想:作家の梁石日ヤン・ソギル)さん。航空自衛隊のトップがあんな論文を書くようでは、本当にシビリアンコントロールが働いているのかと思わざるを得ない。旧満州朝鮮半島が、日本政府と日本軍の努力によって生活水準が向上したなど、とんでもない妄想だ。なぜこのような極右の人物を空幕長にしたのか。こんなことでは日本が本質的に軍国主義から脱していないと、アジアの国々から思われかねない。


立場をわきまえず:軍事アナリスト小川和久さん。田母神氏の論文公表は、航空自衛隊トップとして立場をわきまえない幼児的な行動だ。内容も非科学的で、自衛隊をはじめ、日本に単純思考のタカ派が台頭しているのではないかとの警戒感を世界に与える恐れがある。国家の存亡を左右する組織トップの不祥事だけに、更迭で終わらせるのではなく、厳しく処罰されるべきだ。


朝日新聞・2008年11月1日)
1941年1月から終戦の45年8月まで関東軍特殊情報隊員として旧満州(中国東北部 にいた平野喜三さん (87) =大津市=は「当時任務の必要性から多くの中国人や朝鮮人とつきあったが、日本の圧政と収奪に対する不満が渦巻いていた。もし、日本の占領が『圧政からの解放』であれば、敗戦と同時に暴動や略奪が起こり、多くの在留邦人の命が奪われることはなかった。現職の自衛隊幹部がこんなお粗末な歴史認識を持っていることはきわめて危険だと思う」と話す。


40年末から44年夏まで陸軍兵士として中国山西省の鉄道警備などをした近藤一さん (88) =三重県桑名市=は訓練で捕虜兵を刺殺した体験を講演で語ってきた。「侵略以外の何ものでもなかった。論文は、戦争の実態を何も知らない者が美辞麗旬で事実を曲げた空想小説に過ぎない。こうした論文が書かれる背景には、戦争の責任の所在がいまだにあいまいにされていることが影響しているのではないか」と話した。


日本の近現代史に詳しい現代史家の秦郁彦さんの話 論文は事実誤認だらけだ。通常なら、選外佳作にもならない内容だ。私の著書「盧溝橋事件の研究」も引用元として紹介されているが、引用された部分は私の著書を引くまでもなく明らかなデータだけ。事件の1発目の銃弾は ( 旧日本軍の ) 第29軍の兵士が撃ったという見解には触れもせず、「事件は中国共産党の謀略だ」などと書かれると誤解される。非常に不愉快だ。

田母神記者会見内容(2008年11月3日・産経新聞

「一言も反論できないなら北朝鮮と同じだ」民間懸賞論文に政府見解とは異なる歴史認識を主張する内容を発表して航空幕僚長を解任された田母神俊雄氏が3日夜、時事通信社(東京・東銀座)会議室で記者会見を行い、「一言も反論できないなら北朝鮮と同じだ」などと語った。詳細は以下のとおり。


【冒頭発言】
 このほど自衛隊を退職するにあたって一言所感を申し上げます。私は10月31日付で航空幕僚長を解任され、11月3日付で自衛官の身分を失うことになりました。自衛隊に勤務して37年7カ月、防衛大学校から数えれば通算41年7カ月になります。自衛隊関係者や国民の皆様方の支えがあって今日まで勤め上げることができました。感謝に堪えません、誠にありがとうございました。解任の理由は、私が民間の懸賞論文に応募したその内容が「政府見解と異なって不適切である」というものでした。しかし、私は国家国民のためという信念に従って書いたもので、自ら辞表の提出は致しておりません。その結果、解任という事態となりましたことは自衛隊とともに歩んでまいりました私にとりまして断腸の思いであります。もとより私にとって今回のことが政治に利用されるのは本意ではありません。また、航空自衛官、ひいては自衛隊全体の名誉が汚されることを何よりも心配致しております。
 私は常々、「志は高く熱く燃える」ということを指導してまいりました。志が高いということは自分のことよりも国家や国民のことを優先するということです。熱く燃えるということは、任務遂行にあたりいかなる困難に突き当たろうとも決してあきらめないということです。論文に書きましたように、日本は古い歴史と優れた伝統を持つすばらしい国家です。決して「侵略国家」ではありません。しかし、戦後教育による「侵略国家」という呪縛(じゆばく)が国民の自信を喪失させるとともに、自衛隊の士気を低下させ、従って国家安全保障体制を損ねております。
 日本の自衛隊ほどシビリアンコントロール文民統制)が徹底している「軍隊」は世界にありません。私の解任で、自衛官の発言が困難になったり、議論が収縮したりするのではなく、むしろこれを契機に歴史認識と国家・国防のあり方について率直で活発な議論が巻き起こることを日本のために心から願っております。


 【質疑応答】
【論文を書いた理由】
−(論文は)持論ということだが、政府見解と異なる歴史認識の論文を現役のこの時期に書いた理由は何か
「私が常々考えていたことでありますけれども、日本が21世紀に国家として発展してゆくためには、この自虐史観、そういった歴史観から解放されないと、日本のいろんな政策に影響が出て、なかなか国とした、いわゆる日本が自主的に判断する政策がやりにくいのではないか、と常々思っていまして。日本が悪い国だと、日本のやってきたことはみな間違っていたと、いったことが修正される必要があるのではないか、と思います」

−現役をおやめになって発言されるのは比較的自由だと思うが、どうして現役の今、書かれたのか
「私、実は、これほどですね、大騒ぎになるとは予測していませんでした。もうそろそろ日本も自由に発言できる時期になったのではないのか、という私の判断がひょっとしたら誤っていたかもしれません」

−きょう記者会見を開いた理由は?
「みなさんの一部から私に電話があって、ぜひやってくれという話があったからであります」

【解任について】
−解任され、任半ばでおやめになることで無念なことは何か
「日本はまさにシビリアンコントロールの国でありますから、大臣が適切でないと判断して、やめろということであればそれは当然のことであるというふうに思います。結果が出たことについて、無念とかそういうことを考えていると次に前進ができないので、これは気持ちを切り替えて次、またどうしたらいいかということを考えていきたいというふうに思っています」

−後輩の自衛官に言い残すことはないか
「これは私がずっといってきたことですが、われわれは国家の最後の大黒柱である。従って、志を高くもって、どんな困難があっても常に情熱を燃やし続ける、と。志が高いということは、さっきいったように、自分のことより、国家や国民のためを常に優先した言動をとる必要があるというふうに思います」


【論文の内容】
−論文の内容については、今も変わらないか
「内容については誤っていると思いません」

−論文を拝読して、市販の雑誌から引用が多い。田母神さんご自身が発見されたことはほとんどないと思うが
「それはおっしゃるとおりで、私自身が歴史を研究してというより、いろんな研究家の書かれたものを読んで勉強して、それらについて意見をまとめるということであります。なかなか現職で歴史そのものを深く分析する時間はなかなかつくれないと思います」

−さきほどこれほど大騒ぎになるとは予測しなかったとおっしゃったが、それは論文がこれほど読まれることはないだろう、という意味なのか、内容について国家が受け入れるようになると思われたのか
「後者の方です。日本の国がいわゆる言論の、どちらかというと日本の国は日本のことを守る、親日的な言論は比較的制約されてきたのではないかと思います。で、日本のことを悪くいう自由は無限に認められてきたのではないか。しかし、その状況が最近変わってきたのではないか、という風に判断をしておりました」

−懸賞論文が広く皆が読むということになるとはご承知の上でしたか
「そういう風になることは当初は、まったくしりませんでした。ただの普通の懸賞論文として」

−APA(懸賞論文の主催者)側はそういうことは言わなかったのか。
「ぜんぜん」

−公表されるとは思わなかった
「優秀な論文はAPAが出しているアップルタウンという雑誌に発表されるということは知っていた。まさか、私が優秀論文に入賞するとは夢にも思っていませんでした」


参考人招致問題】
−今後は。政治家に転身しようとか
「いや、まだまったく今のところ心の中は白紙です」

民主党などが国会で取りあげようという動きがあるが
「それはまことに遺憾であります。今いったように、政治にこれが利用されるということについては、まったく私の本意ではありません」

参考人招致には応じるつもりか
「はい、参考人招致があれば、積極的に応じたいと思います」

−会見を行うことは内局は知っているか
「たぶん知らないと思います。私、今日は朝の零時から、なんか民間人になりました。それを知ったのは夕方でしたけれど」

−さきほど国家、国民のため、とおっしゃったが、対外関係に影響を与えた。それでも国家、国民のためになったと思うのか
「私はですね、やはり日本が今まで相手の言い分にできるだけあわせて、日本国民はいわばイイヒトだな、ということだと思うんですね。相手がいえば、ちょっと譲歩してやろうとやってきた結果が、だんだん良くなっているかというとそうではないんではないかと。やはり国際社会の中で日本がきちんと主張していくことが、やはり長期的にみたら日本の国益にかなうことではないかな、と思います」

自衛官官退任の連絡は夕方だということだが
「航空幕僚副長から、そういう辞令がでたと電話で連絡がきました。夕方5時くらい」


歴史認識
−政府の歴史認識が誤っていると思うか
「私は検証してしかるべきだと思います」

−自分の考えが偏っているという風には思わないか
「私はさほど偏っているとは思っておりません」

−有る意味、田母神さんの気に入った雑誌などだけを引用をしているようにみえるが
「日本が悪いことをしたということも、そっちの方が山ほど多いわけですから、そういうのはいっぱい読んででいるわけですね、もちろん。そうでないという歴史観の方も勉強してらっしゃる方もおられますね。その両方を読んで、いったい何が真実かということを、私なりに判断したつもりです」

−大臣とはこの件についてどんなお話を
「中身についてはなにも話しておりません」

−31日、大臣とはお話になりましたか
「電話で、31日に」


【懸賞論文応募の経緯】
−応募は単独で
「単独で」

自衛隊内で誘い合ってではない
「こんなのあるよ、といったことはあるが、出せとか強制はない」

−懸賞論文募集はどこで知ったのか??
「アップルタウンというAPAの雑誌で。私は航空自衛隊小松基地の司令をしていた関係でAPAグループ代表が航空自衛隊金沢友の会の会長をしておられました。そういうことから、小松にいるときからアップルタウンの雑誌を送っていただいてました」

−会長(APAグループ代表)とは親しいのか
「小松時代にだいぶお世話になりました」

−会長がF15にのっている写真がありましたが、便宜供与などもあったのか
「特定の方だけに便宜供与をあたえるというわけではありません。みなさんに航空自衛隊をよく知っていただくために、公平に公正に自衛隊の飛行機にのったりということはしてもらっています」

−中国、韓国が不快感を示しているが。
「それは見解の相違ですから、相手がどう思うかはこちらがコントロールできませんから。向こうがこちらが言ったことに対して不快感を感じることもあるでしょう。そこは大人と大人で、相手はこう思っているとお互い理解しあってつきあえばいいのではないかと思います」


言論の自由
−制服組のトップの立場で発言をされたことについては
「私はさきほどいったようにですね、このくらいのことを言えないようでは、自由民主主義の国ではないんではないかと思います。政府見解とかに一言も反論できないというなら、北朝鮮と一緒ですね」

−一論文で集団的自衛権の行使や武器使用についてマインドコントロールがある、とあり、一読するとそういうことを認めるべきだと読めるが
「書いてあるとおりです、論文に」

−つまり集団的自衛権を認めるべきだと
「そう思います」

−今までも、外部の雑誌に投稿されたことは
「それはありません。部内では相当書いていましたが、外部に論文を発表するのは初めてです」

−旧軍の反省にたって、自衛隊がつくられたが、旧軍に対しての反省はないのでは
「そんなことはありません」

−では何を反省しているのか??
「軍が政治的な決定に対し、いろんな手段をもちいて反旗を翻すという、そういうところが昔は少しあったかなというふうに思います。もちろん226(事件)とか515(事件)などテロが行われることもありましたしね、それによって政治目的を達成すると。現在は自衛隊はまったくそんなことを考えてませんし、現在は政治の決断が下れば機関銃一丁でも、自衛隊はどこにでも行くと」

−政府の見解と違うことを今の立場でおっしゃるのは、それに通じるところはないか?
「私はともかく、大臣の決定に従ってやめろといわれれば、やめていますしね。まさにシビリアンコントロールに屈服しているわけですね。私がこれに対していろいろ抵抗するとすれば、それは問題があるでしょう。政治の決定が下れば、それに反することをやるというのは問題があると思います。ただ、民主主義社会ですから、一度決めたことが時代が変わってちょっと違うのではないか、ということは、私は議論されてしかるべきだと思います」

−政府の見解とはある意味政治の決定ではないか
「それは、政治が決めたんですが、その村山談話なるものが、私は論文の中ではまったく触れていませんが、本当に検証されて、日本国民がみな納得できるものなのかは疑問があります」

−今回の論文の授賞式や賞金の授与は堂々と受けられるのか
「そうですね。はい」

自衛隊には同じような考え方は多いのか
「多いか少ないかは分かりませんが、調べたことがないので。私と同じ意見を持つ人もいると思いますね」