関東大震災時に虐殺された朝鮮人犠牲者の名誉回復を求める声明

2008年8月9日開催されたシンポジウムで採択された日本政府の責任を追及する声明です。これは同時にこのシンポジウムのエッセンスでもありますので以下に全文を掲載し、少し説明を加えます。関東大震災で朝鮮人虐殺があったのは教科書にも書いてある衆知の事実です、しかしポイントは以下でしょう。

• 虐殺を行ったのは誰と誰なのか？
• 朝鮮人に関する流言を流したのは誰なのか？
• それは単なる漠然とした恐れなのか、それとも何か組織的なものか？
• 日本政府はどんな態度を85年間とっているのか？

声明文全文

　1923年9月1日に起きた関東大震災の際の朝鮮人虐殺事件の真相究明と朝鮮人犠牲者の名誉回復のために、日本人、在日コリアン、韓国人３者有志によって組織された「関東大震災85周年シンポジウム実行委員会」主催の下で、日本東京都千代田区の在日本韓国YMCAで本日開催された「関東大震災85周年朝鮮人犠牲者追悼シンポジウム」に私たちは集まりました。

　大震災当時、日本政府は３・１独立運動およびその後の朝鮮・中国・日本などにおける朝鮮人の解放運動の発展、さらには在日朝鮮人社会主義者・労働者との間の連帯志向の動きなどに脅えていました*1。このため、日本政府は大震災の混乱の中で朝鮮人が暴動を起こしたとして戒厳令を布告した結果、軍隊が朝鮮人を虐殺した*2のみならず、民族的偏見を持つ日本人民衆の自警団も朝鮮人虐殺に加わりました*3。
　しかし、朝鮮人暴動は確認されなかったので、日本政府は朝鮮人虐殺を引き起こした責任を隠す処置を行って、その罪責をいっそう重くしました。すなわち、朝鮮人虐殺事件に関する新聞記事が解禁となった同年10月20日、司法省は朝鮮人の犯罪を捏造して発表し、事件の犠牲者である朝鮮人自身に虐殺事件発生の責任を押しつけました。その後、刊行された警視庁編・刊『大正震災史』（1925年）、神奈川県警察部編・刊『大正大震火災誌』（1925年）は流言流布の責任を民衆のみにおしつけ、吉河光貞『関東大震災の治安回顧』（法務省特別審査局、1949年）にいたっては朝鮮人虐殺事件発生の原因の根源は「鮮人の凶暴性や反社会性にある」としました。要するにこれらの官庁出版物は官憲が朝鮮人虐殺を引き起こした責任をまったく隠蔽しました。

　他方、虐殺実態が明らかになることを恐れた警視庁は、在日朝鮮人の朝鮮人犠牲者の実態調査を極力妨害し、かつ彼らの朝鮮人死体引渡し要求も拒否し、朝鮮人遺族の悲しみを一層深くさせました。
　朝鮮人を虐殺した自警団員への裁判は行われました。しかし謙虚に際して「犯罪の顕著なるもののみに限定」する方針が定めれた上に、裁判の結果被告の多くは執行猶予になり、実刑を科せられませんでした。朝鮮人暴動の情報を流した官憲や朝鮮人を虐殺した軍隊はその責任を何一つ問われませんでした*4。　
　この年の12月16日、帝国議会衆議院本会議で議員永井柳太郎は、内務省警保局長や埼玉県内務部長などの官憲が朝鮮人が暴動を起こしたという流言を発した証拠をあげて、朝鮮人虐殺の国家責任を追及し、政府は遺憾の意を表する意思はないのかと詰問したところ、総理大臣山田権兵衛は「政府は起こりました事柄に就いて目下取り調べ進行中でござります」と白々しい発言をして、謝罪を回避しました。

　2003年8月25日、日本弁護士連合会は在日朝鮮人文戊仙さんの人権救済申し立てに応えて同会の人権委員会が作成した「関東大震災人権救済申し立て事件調査報告書」を添えて、朝鮮人・中国人被害者とその遺族に対する謝罪、および事件の真相調査の勧告書を小泉首相に提出しました*5。しかし小泉首相の応答はまったくありませんでした*6。結局、日本政府は朝鮮人虐殺の真相を調査し謝罪することは、事件依頼85年を迎える今日まで一度もありません。

　日本政府は85年にもわたって朝鮮人虐殺事件の真相を隠蔽してきた態度を深く反省し、虐殺事件の真相調査と犠牲者に対する謝罪を行うことを私たちは強く要請します。また大韓民国政府も、朝鮮民主主義人民共和国政府も、この事件の朝鮮人犠牲者の名誉回復のために日本政府に働きかけるよう期待します*7。

2008年8月9日
関東大震災85周年シンポジウム実行委員会主催「関東大震災85周年朝鮮人犠牲者追悼シンポジウム」参加者
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*1:研究者はこの事件を無秩序で偶発的な騒乱ではなく、数年前から盛んになった朝鮮の独立運動を背景に、日本政府が勝手に「恐れた」ことにより起こした、何もしていない朝鮮人への組織的な弾圧だとみています

*2:研究者は前記の背景・流言の源が警察にあることから、虐殺は日本政府の組織的な行動だと考えています、虐殺の一つの主体は軍であるという事です

*3:自警団を虐殺に向かわせた間違った情報の源は警察であることは多くの歴史史料で確認できます、最初は大震災発生日の夕方から警官から流されています

*4:研究者はこれらの裁判について細かく調べてこのような報告を行っています

*5:この勧告書と調査報告書はネット上で閲覧できます。http://www.azusawa.jp/shiryou/kantou-200309.html

*6:こうした過去の日本国の犯罪を隠す、あるいはなかったことにしようとする日本政府の姿は、従軍慰安婦問題、沖縄戦「集団自決」の教科書記述などで何度も見られます

*7:韓国政府はこの問題に関してあまりに無関心です