zames_makiのブログ

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"Nanking" Bill Guttentag(2007)

http://us.imdb.com/title/tt0893356/
アメリカ映画、2007年7月3日 公開、ドキュメンタリー、DVD(Region1) 発売中→中古$9.99から
監督:ビル・グッテンタグ&ダン・スターマン 出演:ウディ・ハレルソンマリエル・ヘミングウェイほか
・安全区委員会の欧米人が書き残した文書を俳優が朗読し、また複数の史料を複合して創造された日本兵や中国市民に扮した俳優がモノローグを語るスタジオ撮影シーン
・中国側生存者の証言シーン(まさに今日控訴審で勝訴した夏淑琴氏も登場)
・元日本兵の証言シーン(昨年末に News23 に登場した元水兵の三谷氏が登場する他、小野賢二氏と松岡環氏が撮影したフッテージが利用されていた)
・当時のニュース映画(日本側、欧米側の双方)や写真、マギーフィルム

JANJANに記事あり http://www.news.janjan.jp/culture/0812/0812163648/1.php
南京大虐殺から71年 東京証言集会・上丸洋一氏の講演・映像 (27分56秒)
JANJAN記事2 http://www.news.janjan.jp/culture/0812/0811300549/1.php

基本的には以上の四つを組み合わせて、上海戦の勃発から安全区の終焉までを再構成している。山田支隊による捕虜殺害を語る場面で村瀬守保氏が撮影した下関の虐殺現場の写真が提示されたり、中国側生存者が(おそらく事後の体験の記憶が混入したためだろうが)「三光」という表現を用いるなど、南京事件それ自体について歴史学的なレベルでの正確さが厳密に追及されているわけではないが、俳優によるモノローグが挟まっているために史実の「再現」ではなく「再構成」であることが了解しやすくなっていること、また資料が断片的であるため文字資料と映像資料とを完全に一致させるような編集は事実上不可能であったことを考えれば、容認可能な範囲の編集であると思われる。日中双方の当事者の証言も非常に印象的に用いられているが、映画全体としては、最も重点を置かれているのは安全区委員会の欧米人たちの活動である。もちろん、当時の日本軍への厳しい評価を示す証言は度々登場するが、他方で本質主義的な日本人非難を排するような工夫もきちんとなされている(特に映画の終盤で)。このあたりは、こういう映画をつくろうとする欧米人にとってもはや常識的な嗜みになっているということなのだろう。日本に対する最も厳しい批判はむしろ、エンディング近くで靖国神社A級戦犯が合祀されていることが指摘され(ここでは、李櫻監督の『靖国』のフッテージが使われており、クレジットもされていた)、「多くの日本人が南京大虐殺の規模についての報告は誇張されており嘘であると考えている」という字幕が出るシーンであろう。公平を期するなら、この映画で使用されているフッテージが市井の研究者・活動家によって撮影されたものだということを(エンドクレジットではなしに、映画中で)紹介しておいて欲しかったところである。殺人や強姦の犠牲者数推定については東京裁判の事実認定を紹介し、映画独自の見解を示すようなことはしていないが、これは映画というメディアの性格と、安全区委員会のメンバーを称揚するという映画の基本的な骨格からすればやむをえないところか。

すでに70年前のこととなった南京事件の場合、事件当時責任ある立場にあった人々はほとんど全てが死去している一方、下級兵士や子どもだった生存者はまだいるという微妙な位置にある。現実の生存者の証言と、当時の文字資料の朗読とを組み合わせるという手法は、こういうケースでのドキュメンタリーの手法としては一つのアイデアと言うことができるだろう。

以下、周辺的な情報。エンドクレジットではルー・リードが曲の提供者として、クロノス・カルテットがオリジナル・スコアの演奏者として挙げられている。また謝辞の対象として笠原十九司・吉田裕・本多勝一といった名前に加えて東中野修道石原慎太郎、北村稔の名前があったのが目を引いた。撮影過程で取材したということなのだろう。どのようなコメントをしたのかは分からないが。ちなみに、マックス・フォン・シドーの名前もあった。