zames_makiのブログ

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旭川動物園の掲示板(動物園での生について)

チンパンジー舎内のスロープ壁面にあるという
https://twitter.com/vanity_temple/status/961454240500662272

「終わりに」

 生まれた命は必ず死で終わります。
 ヒトも動物、でも私たちはヒトだけが快適に暮らせるように環境を造り変え、独特な生命観を持ち生きています。動物たちは与えられた環境の中で生き、食べる食べられる関係にある動物たちが、相手を排除することなく存在を認め合い、調和して共存しています。
 食物連鎖という言葉はご存じでしょう。食べる食べられる、つまり殺し殺される関係の中で、全ての命が輪になっていると言うことです。いいとか悪いとかではなく、ちょっとした油断、ちょっとした衰え、ちょっとした能力の欠如が死を意味し、命が次の命に引き継がれていきます。動物には治療・延命という概念はありません。皆が生物的な寿命まで生きたら、皆が生きる事ができないのです。動物園は連鎖の輪の中から動物を持ち出し飼育していますから、ある意味終われない命になります。でも終わりの時は必ず訪れます。
 治療・延命の概念・価値観を持たない動物、決して他種を信頼しきる事のない野生の血。私たちはそんな命を預かっています。でも預かったからには飼育下という環境の中でその動物らしく暮らし、その動物らしく命を終わらせてあげないといけないと考えています。命は大切と言いますが、それはおそらく長く生きる事ではなく、その動物らしく生きる事だと思います。
 動物は命を次代につなぐ事に純粋にエネルギーを集中します。でも次代につなぐ環境になければ命をつなごうとしません。飼育係が繁殖を目指すのは、その動物が置かれている飼育環境を受け入れてくれた証明になるからです。
 私たちは、その動物らしく一生を過ごせるように日々観察と努力をしています。獣医師もその動物の一生を、いかにその動物らしく過ごせるかをサポートするんだという事を意識しています。病気を発見したとき医学を追究したくなる時もあるのですが、医学のために動物がいるのではないという原点を忘れないようにしています。
  旭川動物園 園長 坂東 元