zames_makiのブログ

はてなダイアリーより移行

フューリー(2014)戦争の残酷さ・アメリカへの精神的荒廃

原題:FURY イギリス 配給:KADOKAWA 初公開:2014/11/28
監督:デヴィッド・エアー 脚本:デヴィッド・エアー 音楽:スティーヴン・プライス

感想

戦場の過酷さ・残酷さを全面に打ち出したリアルな戦争映画(ラストを除いて)。「プライベート・ライアン」等が歩兵の過酷さ・アメリカ兵の精神的な荒廃を描いたとすればその戦車兵版と言える。冒頭戦車長のナチ&ドイツ兵への異常なまでの残虐さが描かれ、まともな新兵にドイツ兵捕虜の殺害を強制する、などアメリカ兵の非人道性が描かれる。ついで占領したドイツの町で古参の戦車兵がドイツ娘を陵辱しようとするエピソードを通じてアメリカ兵の横暴さ・乱暴さと同時に過酷な戦場体験がもたらした精神的荒廃(アメリカ兵も被害者である)も描かれる。更に戦闘場面ではたった1台のドイツ戦車(ティーゲル)のよりアメリカ戦車3台が次々に撃破され、やっとの事で主人公らが生き残るという戦闘描写で戦争の過酷さが描かれる。ここまでで既に勝者として決定的なアメリカ兵にとっても戦争が過酷で、残酷で、無慈悲である事がリアルな描写と共に描かれて、反戦的な戦争映画として見る事も可能な、素晴しい戦争映画である。戦争全体の正義や勝敗は語らず前線の兵士の死と残酷さが全面的に強調されている。
 しかし最後のエピソードは意味不明だ、任務のためたった1台の故障した戦車で大群のドイツ兵と戦闘を行い、全滅する。戦闘の過酷さ描写とアクション映画としての山場を求めたのは理解できるが、映画全体としてはかえって意味不明である。なぜ退却しないのか、彼らの行為に意味があるかは不明であり、おそらく多くのアメリカ人観客はやはりアメリカ兵は偉いとの自画自賛と受け取ったのでは?それは前半の視点と矛盾しており映画全体の完成度やメッセージ性を毀損している。
 映画は実物のシャーマン戦車やティーゲル戦車が登場し、多数の歩兵と共にリアルに描かれており、戦闘場面は迫力満点である。映画の視点は戦争の残酷さ描写にあるのは間違いないが、戦闘場面自体は主人公やアメリカ兵に都合のよいよく見られる娯楽戦争映画と同様な組み立てになっている。
 アメリカ兵の精神的荒廃を描写するドイツ娘のエピソードは秀逸だ。冒頭でドイツ兵を無差別に殺す凶暴な男として描かれた戦車長が、占領した町でドイツ娘の部屋に押し入る。最初はドイツ兵の残党狩りとも見えたが、裸になる描写にドイツ娘強姦が観客の頭をよぎる。しかし彼は卵と煙草を代金代わりに髭を剃るためのお湯と目玉焼きを要求しただけだった。また同行した新兵のアメリカ兵は部屋のピアノでクラシック曲をひきそれにあわせて歌うドイツ娘とつかのまの恋愛と合意の上の性交に至る。そこへ同僚の粗野な戦車兵が乱入し、ピアノを乱打し、ドイツ娘を強姦しようとし、目玉焼きを羨み、ドイツ人を貶し、まるで獣のようだ目に余る粗野さ、やがてそれが過酷な戦場のせいだと推測できるようになっている。ここまでの雰囲気的などんでん返しでこのエピソードは非常に秀逸である、今までのアメリカ兵とフランス娘とのおきまりの恋愛と親しみの描写とはまるで異なる。映画内でアメリカ兵はけして欧州や祖国を救う英雄でなく、もちろん正義でもなく、ただの惨めな人間にすぎない。
 一方最後の全滅エピソードは不自然だ、これが日本軍やドイツ軍など戦争に負けた側の映画なら全滅するエピソードは、ある程度自然であり、戦争の過酷さをより強調する上で適切だ。だが勝者であり、度一つ兵を皆殺しにしてもアメリカ兵の死には大変な怒りをもつ主人公らにして、自分たちが全滅するのは物語としておかしい。何かの必要に迫られてという説明もない。結局勝者であるアメリカが戦争の残酷さ・非人道性を語る、筋立て上の限界のようなものがここに見える。残酷さを描くその意図はよいしかしより細かい説明が必要だったろう。



出演:
ブラッド・ピット(戦車長)軍曹、北アフリカ戦線からの歴戦の強者、ナチは必ず殺す、捕虜も殺す残酷さ、一方冷静で知的、
シャイア・ラブーフ(新兵の副操縦士)八週間前に入隊した新兵、死んだ副操縦士=実際は銃手の代り、戦場にすれておらずドイツ娘に真面目に恋をしその死を悲しむ
ローガン・ラーマン(砲手)常に聖書を手放さない、真面目だが荒くれでもある。優秀な砲手
マイケル・ペーニャ(操縦士)メキシコ出身、スペイン語を時折喋り叱られる、荒くれ男
ジョン・バーンサル(装填手)イタリア系?、非常に粗野、戦場での過酷な生活で獣のようだ
ジェイソン・アイザックス(戦車隊指揮官?)
スコット・イーストウッド(?)
【解説】第二次大戦末期のヨーロッパ戦線を舞台に、たった一台のシャーマン戦車“フューリー号”で、300人ものナチス・ドイツの大軍に立ち向かった5人の兵士の勇気と絆の物語を、リアルかつ迫力の戦車戦とともに描く戦争アクション。

オフィシャル・サイト=http://fury-movie.jp/