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NHKドラマ「悪夢」(2014)たいへん意欲的な障害者によるドラマ

バリバラ*1特集ドラマ「悪夢」制作:NHK教育 演出:福岡利武 脚本:宇田学 54分
放送:2014年12月5日(金)再放送 12月10日(水)0:00〜(火曜深夜)12月12日:出演者によるアフタートーク
出演:ハウス加賀谷統合失調症) / あべけん太 (ダウン症のタレント) / 片山真理 (両足切断のアーティスト)/ 桂福点全盲の落語家) / カンニング竹山杉田かおる(声のみ) / 松本キック ほか

惹句

あなたは禁断の果実を食べますか?--統合失調症の真(ハウス加賀谷)は幻覚に悩まされているが、それを隠して生きている。働くこともできず追いつめられていく真。ある日、障害者だらけの不思議なラウンジ「悪夢」に偶然足を踏み入れて・・・バリバラ初のドラマ、拡大枠で放送!

http://www.nhk.or.jp/baribara/special/akumu.html

感想

なんの前知識もなくNHKの教育番組でのドラマだと漠然と録画したものを見た。なので衝撃的だった、これは「良い意味」での現代の「フリークス」(1932年トッド・ブラウニング)だ、障害者自身が、自分で演じて自分たちの問題を自分で提起し、解決を模索する。それは健常者であり障害者と会った経験のほとんどない私には一種のフリークショーに見える、彼らは物珍しくその点で魅力だが、同時に醜く見え恐ろし感じる。だがドラマの経緯に従い彼らを眺め、感情移入していくことで、少しだけ彼らが理解でき、そして彼らを疎外した上で眺めていた自分に強く問題を感じる。そして更にドラマの提示している彼らの問題にも思いをはせる事ができた。そういったドラマ体験の経緯自体がとても衝撃的だった。
 更に衝撃的なのは、こうした奇抜で実験的(やはり現在でもそうだろう)なドラマがなんの予告も宣伝もなく、普通に放送されている事だ。1932年という人権意識的には太古の時代の「フリークス」のビデオは一種のゲテ物として売られ、同時にそれへの反省=反面教師として見る事ができた(実際には映画のテーマは実はゲテモノではなく障害者がいかに生きていくかという真面目な意識だ。その点で映画「フリークス」は「悪夢」とほぼ同じ構造になっている。)だがこのNHKのドラマには、そうした「予め与えられた価値観・見方」がなく、なんの警告もなく私の視界に入ってきた。その事が「障害者も自分達の仲間で同じ社会で一緒に暮らしている」という事実をより強くいきなり突きつけられた感じで、とても衝撃的だった。
 冒頭ドラマで引きつけられたのはシロイヒトという形で幻覚が見える形で演出されている事だ、それが見た目にも衝撃だし、物語を進める上で強い力があると思い、見入った。だが健常者立ち入り禁止のバーの登場で驚き、自分の目を疑い、それからは圧倒された。次第にドラマの目的がわかりなんとなく大団円が見えた時にある種の予定調和的だるさに陥ったが、ラストのどんでん返しに驚いた。「あの子」は妄想なの!と素直にドラマ的な展開に驚いたのだ、こりゃ予定調和的メッセージをひっくり返すのではないのか?と。だが全体としてドラマのメッセージは明確だろう。
 シロイヒトと言いどんでん返しと言い、このドラマは危ない橋を渡っているなあと思い見終えた。そして健常者である自分には彼らの苦しみより、あのバーへの自分の視線の方が気になったドラマだった。
 1点ドラマで面白かったのは主人公が出かけようと準備をしつつ時計を見て、次の瞬間には1時間が過ぎ、既に面接時間を過ぎてしまっているという描写。統合失調症の感覚とはこんな感じなのかと非常に感心した。
 凄い時代になったものだ。「フリークス」や「典子は、今」(1981年松山善三)を既に見ていてこのテーマや方法に関心があった。そして原一男の「さよならCP」を見たいと思っていた。しかしこのドラマはテレビという普及性を考えればそれらを遙かに凌ぐ問題作、意欲作だろう。

番組紹介文

「バリバラ」では、障害者週間(12月3日〜9日)にあわせて、12月5日(金)、放送時間を拡大し(54分)、特集ドラマをお届けします。幻覚のため、どこにも雇ってもらえず葛藤する統合失調症の男性が、さまざまな障害のある人たちとの交流を通して、自分の障害を受容していく過程をコメディータッチで描きます。
 主演は、お笑い芸人のハウス加賀谷。彼自身、12歳の時に統合失調症を発症し、入退院を繰り返してきた経歴を持っており、ストーリーには、彼の実体験があちこちにちりばめられています。友人役には、同じく「バリバラ」でおなじみ、ダウン症のタレント・あべけん太。「おっぱい大好き」けん太が、彼のお茶目な人柄そのままに、主人公を勇気づけていきます。“バリバラ・ファミリー”を自称する実力派俳優のカンニング竹山杉田かおるも出演。テレビ史上初!?となる、統合失調症×ダウン症のハートフルコメディーです。


あらすじ:統合失調症の真(ハウス加賀谷)は、シロイヒトの幻覚に襲われ、働くことができない上、ひたすら病気を隠しているため友達も作れない。ある時、真は障害者だらけのラウンジ「悪夢」を訪れる。そこには、全盲、ろう、脳性まひ、難病など、さまざまな障害者が集い、飲み、歌い、踊り、みんな楽しんでいる。自分の障害を隠そうとする真は、最初はなじめないでいるが、女主人の紗江(片山真理)とダウン症バーテンダー光司(あべけん太)と出会い、次第に、その世界に魅了されていく。
 そんな時、謎の男(桂福点)が現れ、真に奇妙な果実を手渡し、「これを食べると障害がなくなる。・・・ただし記憶もなくなる。」と究極の選択を迫る。ラウンジの仲間にも相談するが、「食べるべきだ!」「障害も含めておまえの個性だろ!」「だまされている!」「障害がなかったらいろんなことができる!」いろいろな意見が噴出。悩んだ末、真が選択した道とは・・・。

*1:バリアフリー・バラエティショーの略らしい