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メナムの残照(2013タイ)タイナショナリズムとメロドラマの合体

英語題名:SUN & SUNRISE [タイ語?: Khu Gam(คู่กรรม) ] 101分 タイ語 Color, Black & White 2013年 制作:タイ 
監督:キッティコーン・リアウシリクン

感想

タイ人のナショナリズムを満足させ、同時に恋愛ドラマで楽しませる佳作。
日本軍と日本軍人はけして悪人ではないが、タイ人から完全に面従腹背であしらわれ、アメリカの爆撃でどんどん死んでいく。タイ人女性を愛した日本軍人は、無償の愛を捧げけして報われる事がない。タイ人女性は表向きは結婚するが、心も体もけして許さず(たった一度の過ちを除いて)、夫たる日本軍人に捕虜のアメリカ兵の逃走を手伝わせる。ついには女性の恋人の命乞いまで要求される。ラストで実は女性が日本人を嫌っていなかった、本当は愛していたと打ち明けるのが、泣かせるうまいストーリー展開である。
 戦争と日本軍の存在は背景に押しやられ、日本軍の悪行は表だって描かれていないが、台詞で示されていないだけで、物語設定としては日本軍=悪(タイ=正しい)が明確と推測される。実際物語の発端である、日本=タイの友好の証としての日本軍人とタイ人女性の集団結婚式は、おそらく日本軍の圧力によるものであろう。だが映画ではこれについて価値判断をまったく示さず描いている。
 主人公の日本の軍人(若い大尉)は好感度100%の若いタイ人俳優が演じており、映画の随所でタイ人女性に無償の愛を告白し、一方タイ人女性は最後まで寡黙であり本心を示さない、こうした派手さのない恋愛ドラマは日本人に理解しやすいし、タイ人にもうけるのだと思われる。
 映画は何度も映画化・ドラマ化されており、原作や初期の作品からの逸脱や変化が予想されるが、原作未読であり不明だ、戦争の位置づけや主役二人の性格づけ、そしてタイ人女性がどう日本人を思っているのかなどに、変更があってもおかしくない。
 映画祭パンフレットで四方田氏は「ビルマの竪琴」と比較できるとしているが、それは現実を離れたファンタジー映画として同じだ、の意味だろう。映画中での日本軍人はまったくのんきな現代の若者であり、起きる事件(アメリカ兵捕虜の存在、ドイツ軍将校の存在、そしてタイ人パルチザンの破壊工作など)や多くの日本軍人が死亡する何回もの激しい空襲など、事実なのか怪しい。タイ人原作者による「日本=敗れた悪人」のイメージに基づく創作ではないかと思われる。ただ集団結婚式はあったかもしれない。

 全体として物語が明快で、主役二人が親しみやすく、日本を正面から批判するような場面がないので、多くの日本人にとっても切ない恋愛映画として楽しめたのではないだろうか。タイ人にとっては、ナショナリズムや自尊心を水面下で満足させつつ、恋愛ドラマを楽しめる映画になっていると思われる。

物語抜粋

 ビルマへの侵攻のためタイを通過する日本軍は当初タイとの戦闘が危ぶまれたが、タイの寛大な対応でタイ領内で駐留できている。主人公の若い日本軍大尉はある日会ったタイ人少女と親しくなり、病気の治療や料理などでもてなす。一方少女はかたくなな態度のままだ。ある日空襲で二人は一緒に気を失って発見され、タイ社会から二人は出来てると噂が立つ。同時に日本軍は日本=タイの友好の証に日本軍人とタイ人女性の集団結婚式が企画し、駐留軍指揮官の甥である主人公に、少女との結婚が命じられる。これに少女の両親は不満だが従う。二人は双方の思いを確認しないまま結婚式をあげ、一緒に住まう。だが少女には恋人がおり、心も体もけして許さない。それどころか、脱走アメリカ兵をかくまい、タイ人パルチザンと連絡を続け、あまつさえそれを主人公に認めさせる。主人公の大尉は少女への恋心を吐露し、ただ一緒にいるだけでよいとして少女の要求に応じる。ある日少女の恋人が気球で密入国し日本軍に拘束された、パルチザンの破壊工作者である。少女は主人公に助命を要求する。また同じ頃たった一度の過ちで少女が実は主人公の子を妊娠しているのがわかる。苦しむ主人公。
 その時、主人公たちの日本軍部隊にビルマへの転属が決まり、主人公は列車に乗るため去る。少女宅にはタイ警察から逃亡を許可された恋人が訪れ、少女は抱きつく、しかし彼は自分を待たずに自由にしろと言い、出かけた破壊工作先で日本軍に殺される。一方少女は主人公に会いに列車へと急ぐ。しかしちょうどその時、アメリカ軍の列車への空襲で多くの日本兵が死に、主人公も瀕死の重傷を負う。その主人公を発見した少女は実は好きだったと打ち明け、主人公が眼を閉じ死にゆく中教えられた日本語「あなたを愛しています」を繰り返すのだった。
 原作=「メナムの残照」 トム・ヤンティ 角川文庫 1978年



作品解説:

太平洋戦争中のタイ。駐屯する日本軍に反発しながらも誠実な海軍少尉・小堀に惹かれていくタイ人女性アンスマリン。運命のカップルはやがて結ばれるが、抗日活動に身を投じたかつての恋人がアンスマリンの前に現れて…。タイ人なら誰でも知っている物語でタイ人は日本人を見かけると「小堀を知っているか?」と聞くという、4回目の映画化。

あらすじ
太平洋戦争中の1942年。日本軍がバンコクに駐留する。ビルマへの行軍を待つ兵士のなかに海軍少尉の小堀もいた。小堀はある日、美しい少女アンスマリン(「太陽」の意)と出会い惹かれていく。タイ政府高官であるアンスマリンの父親の発案で、日タイ友好の証にアンスマリンは小堀と結婚することになる。小堀は彼女を「日出子」と呼んで愛し、日本軍への反発心を持っていたアンスマリンも徐々に小堀に惹かれていく。しかし運命のカップルの上にも戦火が迫る。原作は女性作家トムヤンティが1960年代に発表した小説「メナムの残照」(原題は“Khu Kam”「運命のカップル」の意)。角川文庫などから邦訳も出ているが、タイでは4回の映画化(1973年、88年/TIFF89出品、95年、2013年)、6回のテレビドラマ化(1970年、72年、78年、90年、2004年、13年)がなされ、主人公の息子を描いた続編もあるなど、誰でも知っている戦時下の悲恋物語である。今回の最新版で小堀を演じた若手スター、ナデート・クギミヤ(釘宮)は養父が日本人との由。

上映 東京国際映画祭

10/24 12:10- 10/28 17:40-