zames_makiのブログ

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小さいおうち(2013)戦時下の生活と秘めた恋

=素晴しい、上質で感情移入を伴って感じられる戦時下の生活と恋のミステリー
136分 日本 配給:松竹 公開:2014/01/25
監督:山田洋次 原作:中島京子『小さいおうち』(文藝春秋刊) 脚本:山田洋次平松恵美子 音楽:久石譲

感想

素晴しい映画、知っているようで理解できていない戦時下の生活、即ち兵士でない国民が体験した戦争をよく実感させてくれる。恋のミステリにより観客は主人公らに自然に感情移入し戦時下の生活と出征の悲しみを実感する。映画は原作より、生活と恋のミステリにうまく焦点を絞っており、逆に小説にあった板倉の悲劇的な戦場体験のエピソードは省略されている。映画を見る事で板倉青年の出征は観客にとってもショックな出来事と本当に感じられ、今まで見慣れた一種の儀式としての兵士の出征がリアルな「死ぬ可能性」として感じられる。
 日中戦争開始時から昭和18年頃までの戦時下の日本人の生活がリアルにわかり大変教えられる事が多い。それを現代の若者が、教科書的に「暗いはずだ」と批判するシーンは、映画での戦争認識批判ともなっていて秀逸だ。若者が歴史を美化するな、南京虐殺があったのに東京ではお祭りだったなど批判するシーンは原作にあるもので、映画は原作に忠実であり、この映画の戦争への態度は意図的なものというより、原作に忠実と言うべきだろう。だが、それは「永遠の0」とはおよそかけ離れた、歴史に忠実であると同時に現代的なものでもある。戦争前夜を多く描く本作は、戦争前夜と言われる2014年現在の日本を象徴し批判しているようにしか見えない。映画は最後「あの時代は皆が何かしら不本意な事を強いられた、自らする人もいてそれが強いられたものと気づくのに長い時間がかかる場合もある」などはまさに2014年の日本の右傾化傾向への批判であろう。
 最後のどんでん返し(余韻を残す謎)へ向けて引っ張る恋の謎も、大変語り口が丁寧でひそやかで雰囲気があり素晴しい。戦時期の出来事を、現代の若者が年寄りから聞くという構造、聞き出す中で謎がありその謎により物語りが牽引されるという構造で、この映画と「永遠の0」は全く同じである。にもかかわらず両者に相当の差があり、「永遠の0」が事実のねじ曲げによる恐ろしく人工的で底の浅い謎であるのに対し、本作は自然で出来事の本質をより真実に近寄れるように説く素晴しい映画だ。

出演:

黒木華(布宮タキ)赤い屋根の家の女中、山形出身、東京空襲前に故郷へ、戦後手記を残し、孫に渡した後に死亡
松たか子(平井時子)赤い屋根の家の奥様、女中タキと仲がよい、板倉青年に恋をする、東京空襲で死亡
吉岡秀隆(板倉正治)玩具会社の社員、赤い屋根の家の近所に下宿、芸術家肌で奥様と仲が良い、出征する、戦後は画家になる
片岡孝太郎(平井雅樹)赤い屋根の家の主人、玩具会社常務
市川福太郎(平井恭一・少年期)赤い屋根の家の坊ちゃん、足が悪くタキにおぶされて病院通いする、板倉青年にもなつく
ラサール石井(柳社長)玩具会社社長、常務の家に遊びに来る、アメリカに出張経験があり、経済視点での日中戦争日米戦争に関しての説明役となっている
中嶋朋子(松岡睦子)奥様の女学校時代からの友達、キャリアウーマンで独身、謎めいた人物
橋爪功(小中先生)タキが最初に働いた家の主人、小説家でタキに英国の女中の話をする
室井滋(貞子)時子奥様の叔母、何かとうるさい
妻夫木聡(荒井健史)タキの孫、手記の発見者、現代への橋渡し役
倍賞千恵子(布宮タキ・平成時点)現代のタキ、独身で老いても一人住まい、手記を書く
米倉斉加年(平井恭一・平成時点)赤い屋根の家の坊ちゃん、タキの残した手紙を開封する


【解説】中島京子直木賞受賞作を映画化した感動ドラマ。日本が泥沼の戦争へと向かっていく昭和初期の東京を舞台に、赤い三角屋根のモダンで小さな家に女中奉公することになった若い娘タキによって語られる庶民の暮らしぶりと美しい女主人・時子の秘めたる禁断の恋の行方を、リアルな時代風俗描写とともにミステリアスに綴る。大学生の健史は、亡くなった大伯母・布宮タキから彼女が遺した自叙伝を託される。そこには、健史が知らない戦前の人々の暮らしと若かりしタキが女中として働いた家族の小さな秘密が綴られていた――。昭和初期、山形から東京へと女中奉公に出たタキは、小説家の屋敷に1年仕えた後、東京郊外の平井家に奉公することに。その家は、赤い三角屋根が目を引く小さくもモダンな文化住宅。そこに、玩具会社の重役・雅樹とその若い妻・時子、そして幼い一人息子の恭一が暮らしていた。3人ともタキに良くしてくれ、タキはそんな平井家のためにと女中仕事に精を出し、とりわけ美しくお洒落な時子に尽くすことに喜びを感じていく。ある年の正月。平井家に集った雅樹の部下たちの中に、周囲から浮いた存在の青年・板倉正治がいた。美術学校出身の心優しい板倉に恭一がすぐに懐き、時子も妙にウマが合って急速に距離を縮めていくが…。
公式サイト=http://www.chiisai-ouchi.jp/