zames_makiのブログ

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レバノン(2009)イスラエル

2009年 イスラエル・フランス・イギリス 90分 カラー/90分/ビスタ/DLP上映
原題:LEBANON 監督:サミュエル・マオス 脚本:サミュエル・マオス
出演:ヨアフ・ドナ、イタイ・タイラン、オシュリ・コーエン、マイケル・モショノフ、ゾハー・ストラウス、レイモンド・アムセレム、アシュラフ・バーホム 他
配給:プライムウェーブ 2009年ベネツィア国際映画祭<金獅子賞>受賞
日本公開:2010年12月10日
…1982年6月6日 イスラエルレバノンに侵攻 鋼鉄の箱に護られた4人の戦車兵は 生々しい戦場の光景を目撃する。それは精神の限界を超えた 狂気と殺戮の地獄絵図 しかし彼らは知らなかった 戦場に安全な場所など無いことを…。これはレバノン戦争の、最初の一日を描いた物語である。カメラはある戦車の中から外には出ず、物語は4人の戦車兵と、彼らがスコープ越しに見る外部の光景とで展開される。その光景とは、炎上する街。砲撃で四散する、敵や味方の兵士たち。犬のように殺されてゆく、女子供や市民たち。安全な戦車内から、無惨な戦場を見守り続ける4人。優柔不断な指揮官のアシ、反抗的なヘルツル、気が弱く引き金も引けない砲撃手のシムリック、臆病な操縦士のイーガル。やがて対戦車弾の直撃を受け、敵中に孤立した彼らの身にも危機がせまる。発狂しそうな恐怖の中、彼らは何とか故障した戦車を修理し、この地獄から脱出しようとするが……。

上映 渋谷シアターN 12/11(土)〜1/7(金)ロードショー!

上映時間:90分  13:10  15:10  17:10  19:10
1800円 (水曜1000円)

土井敏邦氏の評

http://www.doi-toshikuni.net/j/column/20101231.html
=土井氏は現在では最も辛らつで優れた戦争映画批評家に思える。今ではキネマ旬報にはこうした想像力のある批評家はいない。

イスラエル映画レバノン』は、どんなメッセージを観客に伝えたかったのか。
(略)
しかしこの映画を観終って、私はざらざらした、不快な残像感が残った。それは2年ほど前にみたアニメ映画『Waltz with Bashir(バシールとワルツを)』(日本語版名『戦場のワルツ』)を観終わったときの感情に共通している。(略)『レバノン』でも私は「良心的」な「左派イスラエル人」の“カタルシス”の匂いを感じ取ってしまう。
(略)
 中国大陸に侵略したある旧日本軍部隊の兵士たちを描いた戦争映画を作るとしよう。その部隊は「匪賊せん滅」のためにある村を襲撃する。しかしやがてその村は逆に、日本軍が「匪賊」と呼ぶ中国共産党八路軍の大部隊に包囲される。映画はその村に包囲された日本軍兵士の言動、心情を等身大に克明に描いていく。兵士の遠い家族への思い、大軍に包囲された死への恐怖心、補給路を断たれた飢えと渇き、生き残るための村人からの略奪、そして殺戮とレイプ……。映画は、大軍に包囲された日本軍兵士の置かれた状況から始まり、その中で兵士個々人の心情を細かに描いていく。恐怖、絶望、自暴自棄、欲望、憎しみ、怒り……。そしてその発露の象徴である兵士たちのレイプ・シーン、住民殺戮の状況を微に入り細に入りリアルに描き出す。ホラー映画かアダルト映画と見間違うほどに。どれもこれも「事実」である。実際にそれを体験した監督の作品なら、その表現のリアルさはいっそう説得力を持つ。そしてその映画は「戦争のおぞましさをリアルに表現した優れた映画」と喧伝される。
 しかし私は、その映画には決定的に重大な部分が欠落していると思う。それは日本軍が中国という他国に侵略しているという“大状況”である。その“大状況”を作り手の監督がどう捉えているのか、その思想と見識こそが、映画の主張、メッセージを決定する。そのメッセージに沿って「事実」は選択され、その並べ方が決められていく。
 活字や映像という手段を用いて“表現する”“伝える”というのは、そういうことではないのか。