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扶桑社教科書と普通の教科書の比較

以下は朝日新聞愛媛版の記事のスクラップ、ネット上にある
http://mytown.asahi.com/ehime/news.php?k_id=39000141003140001

扶桑社教科書どう違う 今治・上島で採択(朝日新聞 2010年03月14日)

 新年度から今治市立と上島町立中学校では「歴史」と「公民」の教科書が扶桑(ふ・そう)社版に変わる。両市町の教育委員会が昨年8月、県内の市町では初めて扶桑社版を採択したためだ。しかし、この教科書を巡っては賛否の意見が県内外で激しく対立している。現行の教科書とどのような違いがあるのか。双方の教科書を比較してみた。(寺門充)


●歴史
  今治市立と上島町立の中学では現在、歴史教科書は東京書籍の「新編新しい社会 歴史」が使われている。新年度からは扶桑社の「改訂版 新しい歴史教科書」になる。
  扶桑社版は「新しい歴史教科書をつくる会」会長の藤岡信勝拓殖大学教授が代表執筆者。同社のホームページには編集趣意として「21世紀に生きる日本の子どもたちが、健やかに成長し、日本人としての誇りと自覚を失わず、世界中の人々と交わって活躍できるようになるために編さんされた」としている。時代別に主な記述内容の違いを拾ってみると――。


  【古代】 扶桑社版は「神武天皇の東征伝承」と題名がついた「読み物コラム」に1ページが割かれ、「日本書紀」に収められた神武天皇の物語のあらすじを紹介した上で、「それがそのまま歴史上の事実ではなかったとしても、古代の人々が国家や天皇についてもっていた思想を知る大切な手がかりになる」としている。このほかにも「日本の神話」と題したコラムに2ページが割かれている。一方、東京書籍版に神武天皇についての記述はなく、「日本の国家のおこりや、天皇が国を治めるいわれを確かめようとする動き」として「神話や伝承・記録などをもとにまとめた『古事記』と『日本書紀』」があったと説明している。


  【中世】 モンゴル帝国の5代目フビライ・ハンによる2度の襲来「元寇(げん・こう)」について、学習のポイントとして扶桑社版は「日本はなぜ元の襲来をはね返すことができたのだろうか」と生徒たちに問いかけている。東京書籍版は「モンゴルの襲来は、日本の社会にどのような影響をあたえたのでしょうか」と問うている。


  【近世】 豊臣秀吉の2度にわたる朝鮮への出兵について扶桑社版は「朝鮮への出兵」、東京書籍版は「朝鮮侵略」という項目名になっている。出兵の結果について扶桑社版は「朝鮮の国土や人々の生活は著しく荒廃した。この出兵に、莫大な費用と兵力をついやした豊臣家の支配はゆらいだ」と記す。東京書籍版は「朝鮮では、多くの人々が殺されたり、日本に連行されたりしました。日本の武士や農民も重い負担に苦しみ、大名の間の不和も表面化し、豊臣氏没落の原因となりました」としている。


  【近代】 教育勅語(1890年発布)について、扶桑社版は「父母への孝行や、学問の大切さ、そして非常時には国のためにつくす姿勢など、国民としての心得を説いた教えで、1945(昭和20)年の終戦にいたるまで各学校で用いられ、近代日本人の人格の背骨をなすものとなった」、東京書籍版は「忠君愛国の道徳が示され、教育の柱とされるとともに、国民の精神的、道徳的なよりどころとされました」と記す。
  日露戦争について扶桑社版は日本海海戦を「兵員の高い士気とたくみな戦術でバルチック艦隊を全滅させ、世界の海戦史に残る驚異的な勝利を収めた」と説明。「歴史の名場面」と題した特設ページで戦闘の模様も紹介している。東京書籍版では「日本海海戦で勝利をおさめました」とだけ記し、与謝野晶子日露戦争に出兵した弟を思って「君死にたまふことなかれ」という詩を発表したことにも触れている。


  【第2次大戦】 日本の真珠湾攻撃に始まる戦争について扶桑社版は「大東亜戦争(太平洋戦争)」と題した項で、「戦後、アメリカ側がこの名称を禁止したので太平洋戦争という用語が一般化した」と指摘。また、「アジアの人々を奮い立たせた日本の行動」「日本を解放軍としてむかえたインドネシアの人々」と題したミニコラムもあり、「日本の南方進出は、もともと資源の獲得を目的としたものだったが、アジア諸国で始まっていた独立の動きを早める一つのきっかけともなった」としている。
  東京書籍版は「アジア・太平洋での戦い」と題した項で「大東亜共栄圏」を説明し、戦争名は「太平洋戦争」とだけ記述。「日本が侵略した東アジアや東南アジアでは、戦場で死んだり、労働にかり出されたりして、女性や子どもをふくめて、一般の人々にも、多くの犠牲を出しました」とし、戦後は「日本が占領した東南アジア諸国や、朝鮮、台湾などの日本の植民地は解放され、独立に向かいました」としている。
  広島、長崎の原爆投下による死者数について扶桑社版は触れていないが、東京書籍版は「投下から数年内に、広島市では約20万人以上、長崎市では約14万人以上」と記している。


●公民
  公民の教科書は、今治市立と上島町立中学では現在、大阪書籍日本文教出版発行)の「中学社会 公民的分野」を使っている。新年度からは扶桑社の「新訂版 新しい公民教科書」に変わる。
  扶桑社版は、「新しい歴史教科書をつくる会」元会長で2007年に「改正教育基本法に基づく教科書改善を進める有識者の会」を立ち上げた八木秀次高崎経済大学教授が代表執筆者。扶桑社のホームページには、編集の基本方針として「全体を通して、長い歴史と伝統を誇る日本国の公民としての自覚を持たせることを狙いとしました」としている。


  【日本国憲法】 扶桑社版は「諸外国の中にはひんぱんに憲法改正を行っている国もあるが、日本国憲法は公布・施行後は一度も改正されていない」と記す。「『世界最古』の日本国憲法」というコラムもあり、「日本より早く制定された13か国の憲法は、いずれものちに改正などの手が加わり、制定当時とは変わったものになっている。つまり、わが国の憲法は制定以来一字一句まったく変わっていないという意味で『世界最古の憲法』なのである」としている。大阪書籍版には見当たらない指摘だ。


  日本の平和主義について、扶桑社版は「平和をめぐる問題点」として「各国は国力に応じた一定の戦力をもつことで、平和を維持しようとしており、国際法では自衛権は、その国の主権の一部と考えられている」と紹介。大阪書籍版では憲法9条の条文を載せた上で、「主な国の憲法戦争放棄条項」の欄で5カ国の憲法を紹介。「現在の自衛隊の装備をみると自衛のための最小限の実力をこえている、といった意見があります」としている。


  【国旗と国歌】 扶桑社版は3ページにわたって国旗・国歌について説明し、「私たちにはまず何より、自国の国旗・国歌を尊重する態度が必要である。そして、基本的な国際儀礼として、ほかの国の国旗・国歌も尊重することが必要」としている。大阪書籍版は「国のシンボルとして相互に尊重し合うことが、国際的な儀礼」としている。


  【領土問題】 北方領土竹島尖閣諸島について、扶桑社版は「歴史的にも国際法上もわが国の固有の領土である」と指摘。大阪書籍版は「定まらない領土と国境」と題した欄で、関係国が領有を主張していることに触れ、「隣接する国々の大きな関心事であり、実際の利害もからみます」と説明している。


●全国では
  2010、11両年度の2年間にわたって使う中学校教科書の採択は、昨年8月末までに全国の教育委員会であった。県内は11の採択地区に分かれており、今治市上島町で一つの採択地区となっている。両市町の教委は昨年8月27日に開いた臨時委員会で、歴史と公民の教科書に扶桑社版を採択することを多数決で決定した。


  採択前の昨年7月、両市町の校長、教頭、保護者代表らでつくる今治地区教科用図書採択協議会(会長=日浅義輝・今治市立近見中学校長)は、10、11両年度の中学の教科書について「すべての教科において現在使用しているものを継続して使用することが望ましい」との審議結果を両市町教委に報告していた。その理由として、12年度から学習指導要領が新しくなるのに伴って教科書の内容も変わるため、10、11年度は現行の教科書をそのまま使った方が生徒も教員も学習を進めやすい▽学校現場から現在の教科書について特に問題点を指摘する声はないことなどを挙げている。


  ところが、両市町の教委は協議会の審議結果に反して扶桑社版を採択した。小田道人司(みち・と・し)・今治市教育委員長は「私たち教育委員は、その使命を全うするべく数カ月間にわたる調査・研究を重ね、今治市の中学生のために最善の教科書を選定することができたと確信しております」とのコメントを発表。昨年の9月定例市議会で「日本人としての誇りを持ってこれからの国際社会に貢献していく日本人を育てるという意味で、扶桑社版の歴史教科書が最も優れていると判断した」と説明した。


  その後、扶桑社版の採択に反対する市民団体が市教委に採択の撤回などを相次いで申し入れた。先月には今治市に対し、採択にかかわる公金支出の返還や差し止めを求める住民監査も請求された。


  扶桑社版の中学校の歴史と公民の教科書は01年に文部科学省の検定に合格した。県内では県立学校が歴史の教科書を02年度から継続して使用している。公民の教科書で扶桑社版を採択したのは県内では今治地区が初めてだ。


  文科省によると、全国の中学校では10年度から歴史教科書として9社の計123万9145冊が使用され、このうち扶桑社版は7250冊。シェアは最下位の0・6%にとどまる。公民教科書は8社の計118万4306冊が使用されるが、扶桑社版は4201冊でシェアは最下位の0・4%だ。


  扶桑社によると、今回、市町村単位で扶桑社版の中学校教科書を新規採択したのは全国で今治地区だけだった。継続分では栃木県大田原市が歴史と公民の双方を採択した。このほか東京都立学校が双方を、東京都杉並区と愛媛県立学校が歴史を、それぞれ継続採択している。


●藤岡氏の視点で知識重視の記述
  高嶋伸欣(のぶ・よし)・琉球大学名誉教授(社会科教育学)の話 扶桑社版の歴史教科書は、代表執筆者の藤岡氏が子どもたちに教え込みたいことを中心に知識を増やすことに重点が置かれている。思考力や判断力を豊かにすることに重点を置く最近の学力づくりとは逆行しており、現場の教員は苦労するだろう。


  天皇中心のイデオロギー皇国史観の影響が鮮明だ。学界の定説や研究の到達点を無視し、「仁徳天皇陵」と確認されていない古墳の写真説明に「大仙古墳(仁徳天皇陵)」と記したり、客観性に疑問のある資料をもとに昭和天皇の人物像を描いたりしている。「帰化人」という言葉には日本側の優越意識が込められている。このため他の多くの教科書は「渡来人」とだけ記すが、「帰化人(渡来人)」と表記している。


  教育委員会は、現場の教員が他の比較教材も使いながら多角的な視野で授業をする自由を保障することが肝要だ。


●副教材採用は教員の工夫に任す
  高橋実樹(じつ・き)・今治市教育長の話 合議制の教育委員会で採択した以上、賛否どちらの立場であろうとも扶桑社版の教科書で2年間学んでいく。教科書「を」教えるのではなく、教科書「で」学ぶのが基本。学習指導要領に従った上で、教科書以外の副読本や他の教科書の記述内容も教材に採り入れるなど、各校の教員が授業の進め方を工夫するのは自由だ。


  市教委は思いやる心、たくましい精神と公徳心、郷土愛を育むために心の教育に力を入れている。意見の違いや様々なものの見方があることを知り、相手のよいところや立場の違いを理解して自らの判断で行動できる人間を育てることが第一だ。


  日本がたどった歴史の事実や過去の反省に立って平和を求めるのは当然のこと。世界の人々とのつながりを大切にし、日本人としてのアイデンティティーを確立する。そのために幅広いものの考え方のできる教育をしていく。