zames_makiのブログ

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告発のとき(2007)IN THE VALLEY OF ELAH

製作国 アメリカ 上映時間 121分 初公開年月 2008/06/28
2008年6月28日(土)、有楽座ほか全国TOHO系ロードショー
監督・脚本:ポール・ハギス 製作:スティーヴン・サミュエルズ 音楽:マーク・アイシャム
出演: トミー・リー・ジョーンズ シャーリーズ・セロン スーザン・サランドン ジョナサン・タッカー ジェームズ・フランコ
オフィシャル・サイトhttp://www.kokuhatsu.jp/
オフィシャル・サイトhttp://wip.warnerbros.com/inthevalleyofelah/ (英語)
映画とイラク戦争と大統領選挙・ゲスト:町山智浩氏(映画評論家)×武田徹氏「戦争報道」:http://www.videonews.com/on-demand/381390/001380.php
=メモ:イラク派兵されている米兵がどうしようもなく倫理的に堕落している事を劇映画の形で示す映画。これを見ると最近のアメリカ兵は質が低下したという意見に納得する、米兵はWW2では酒、ベトナム戦争ではドラッグにおぼれながら戦争をしたが、イラクではそれ以下である。
息子の変死(失踪)を知らされた兵士あがりで軍国主義的な父(トミー・リー・ジョーンズ)は息子の死の真相を知るため一人で捜査する、イラクに派兵されていた息子は謎の写真(携帯電話の中に残された写真)を残し、アメリカ国内の基地で失踪、捜査にあたる若い女の刑事(シャーリーズ・セロン)は頼りにならぬ。父の刺激で再捜査、舞台の戦友に殺された事が判る。同時に写真の解読され、そこでは虫けらのように殺されるイラク人の少年の写真。
 ひどく操作的なシナリオが鼻に付くが劇映画の手法で、「今のアメリカ兵はモラルが最低」を示す。これを喜ぶ観客がいるわけがない。推理小説的シナリオに引っ張られて映画を見た観客は(特にアメリカ人は)嫌悪感しか覚えないのはよく理解できる。

毎日新聞 映画評 2008年6月11日

http://mainichi.jp/enta/cinema/review/
告発のとき」:人間の中に潜む暴力の芽を摘むにはどうしたらいいのか。チクチク、チクチクと心に突き刺さってくる。その痛みは、主人公ハンクの痛みだ。痛みはやがて、静かな怒りや悲しみに変化し、私たちの心に重く沈殿していく。


 「ミリオンダラー・ベイビー」「硫黄島からの手紙」の脚本、そして05年の米アカデミー賞作品賞を受賞した「クラッシュ」に続くポール・ハギス監督の新作は期待を裏切らない出来。実際の事件を元に、ハギス監督は1年半もかけて重厚な脚本を書き上げ、また見る者の心に深く残る作品を作り上げた。
 元軍人の男ハンク・ディアフィールドは、息子が軍から抜け出したという知らせを受ける。息子はどこへ行ってしまったのか……。探し回るハンクだったが、しばらくして息子は無残な死体で発見される。息子を殺したのは誰なのか? 父親自身が事件の真相を追究していくという筋立て。


 映画はまるでミステリーを解くように展開されるが、結末を知って「そうだったのか」と留飲を下げるだけの作品ではない。それに背景にイラク戦争があるからといって、ただの戦争映画でもない。
 大きくて深いテーマが横たわる。人間の深い闇の部分。ハギス監督は「状況下における人間の姿」という表現を使っている。戦争はなぜ、人間をゆがませるのだろうか。戦争、正義、愛国心といった重い要素をからませながら、息子を思う一人の父親像が静かに描き出される。


 主人公のハンクは愛国心のある普通のアメリカ人だ。元軍人として誇りも高い。息子はイラクからの帰還兵。真相を知るために懸命なハンクの姿をカメラは寄り添うように、じっくりと映し出していく。
 ハンクは父親としてもそうだが、元軍人としても、息子の身辺で起きたことを暴かずにいられないのだろう。演じるトミー・リー・ジョーンズの緊迫した表情は、深いしわを一層引き立たせ、老いた父親とその息子をの関係に思いを至らせる。母親役はスーザン・サランドン。少ないシーンだが悲しみを体現している。


 真相を追う“探偵役”がもう一人いる。女性刑事エミリーがハンクを手助けするのだ。もう一つの視点を用意したおかげで、真相追及の線が太くなった。おかげでこの父親が一人よがりな感じにならずにすんだだけでなく、老いた父親と女性刑事という組み合わせも映画として面白い。
 エミリーを演じるのはシャーリーズ・セロン。セロンは髪を真ん中分けにし、真面目で正義感の強いキャラクターをうまく表現している。主演作「スタンドアップ」でも男社会の中で孤軍奮闘する女性を力強く演じていたが、再び警察という男社会で奮闘している。


 事件はどんな展開を見せるのだろうか。2人の行く先に何が待っているのだろうか。単純に謎解きで観客を深く引きずり込ませながら、一番大事なところで、人間の変化を見せていく手腕は巧みとしか言いようがない。また、ハギス監督は「クラッシュ」と同様に、次世代を担う子どもたちへのメッセージも忘れていない。
 戦場の残虐行為や帰還兵のPTSD(心的外傷ストレス)は、世界的に深刻な社会問題だ。人間の中に潜む暴力の芽を摘むにはどうしたらいいのか。問いかけが心の中にしこりとなって残る。(文・イラスト、キョーコ)