映画「ジョン・ラーベ」(2009)ドイツ
2009年2月7日 ベルリン映画祭に出品
製作:中国=ドイツ=フランス 原題:John Rabe 134分
監督:フローリアン・ガレンベルガー Florian Gallenberger
公開:2 April 2009 (Germany) 予定、7 February 2009 (Berlin International Film Festival) 出品
出演:Ulrich Tukur ... John Rabe
Daniel Brühl ... Dr. Georg Rosen
Steve Buscemi ... Dr. Robert Wilson
Jingchu Zhang ... Langshu
Teruyuki Kagawa香川照之 ... Prince Asaka(朝香宮親王=上海派遣軍司令官)
Akira Emoto榎本明 ... General Matsui松井石根南京攻略軍大将
Togo Igawa井川 ... Ambassador Fukuda福田大使
Arataアラタ ... Major Ose小瀬少将
Tetta Sugimoto杉本鉄太 ... Kesago Nakajima中島袈裟碁
→John H. D. Rabe氏を主人公に
→『ニューズウィーク』日本版2008年3月12日号に記事
→チャイナネット日本語版に記事(2009年2月9日)
「ジョン・ラーベ南京事件題材 新たな発見」(朝日新聞2009年2月18日)
南京大虐殺を描いた合作映画がベルリンで上映される 2009/02/10
中国、ドイツ、フランスが共同で製作した映画『ジョン・ラーベ』のプレミアショーが、2月7日にベルリンで行われた。『ジョン・ラーベ』の内容は、日本軍が南京大虐殺を行った時期に、ナチズムを深く信じて疑わなかったドイツ人のジョン・ラーベが、戦争という残酷な現実の中で国際安全区を勇敢に作り、20万人の中国の人々の命を救ったというものだ。この映画は、ジョン・ラーベの日記を中心に語られており、出演している数人の中国人俳優のシーンはそれほど多くないものの、張静初と『グッバイ、レーニン!』に出演したダニエル・ブリュールとのあいまいな感情は、この冷酷な歴史に暖かい色を添えている。
写実スタイルのこの映画には、当時の中国社会の戦争に対する恐怖やどうしようもなさ、日本軍の残忍さが正確に描写されている。芸術的なレベルからすると『シンドラーのリスト』とは差があるが、歴史の事実を第三者が語る点では説得力がある。
ガレンベルガー監督は、「『ジョン・ラーベ』を『シンドラーのリスト』のような映画にし、スティーヴン・スピルバーグ監督と優劣を争うつもりはないが、もし観客がこの映画を見て『シンドラー』と比較してくれるならとてもうれしい」と語っている。
またガレンベルガー監督は中国の俳優の演技も賞賛している。3年前、ガレンベルガー監督は、映画『孔雀』でベルリン映画祭に参加した張静初と偶然知り合い、中国関係の映画を書いているという話に張静初は興味を示した。ガレンベルガー監督は、「結果は望んでいた通りで、張静初はとても魅力的ですばらしい女優」だと話す。
この映画は現在、中国で審査されており、順調であれば4月〜5月には中国国内で上映される見込みとなっている。
「ジョン・ラーベ南京事件題材 新たな発見」(朝日新聞2009年2月18日)
斬新な表現光る日本勢 ベルリン映画祭報告(下)2009年2月18日
■「ジョン・ラーベ」 南京事件題材「新たな発見」日本関連の作品では、旧日本軍による「南京事件」を題材にした「ジョン・ラーベ」(ドイツ、フランス、中国の共同製作)が上映された。現在のところ、日本での公開予定はない。
ジョン・ラーベはドイツの会社員として中国に駐在中の37年、ナチ党の力を利用することで日本の力が及ばない保護地区を作り、大勢の市民を救ったとされる。
作品では、空襲から市民や建物を守るため、巨大なナチ党の旗を上空から見えるように広げるシーンが印象的だ。旧日本軍の兵士が捕虜を大量に銃殺したり、殺害した市民らの首とともに記念撮影したりする場面も描かれている。
ドイツ人のフローリアン・ガレンベルガー監督は会見で「映画のほとんどはラーベの日記と歴史的な情報をもとにしている。難しかったのは、そこからドラマを作り上げること。芸術家として自由に映画を作り上げたが、ラーベの話は真正のものとして誠実に描いたつもりだ」と語った。 日本人の俳優も登場し、将校役を香川照之、柄本明、杉本哲太らが演じている。同席した香川は「こういう人がいたのは、新たな発見だった。映画は、日本人にとって難しい問題を含んでいる。日本でも公開されることを望んでいますが……」と話した。
あらすじ(海形マサシ、JanJan 2009/04/13 )
1937年。中国の首都南京に、ドイツ・ジーメンス社の現地社長としてジョン・ラーベが働いていた。ラーベは既に、中国在住約30年におよび、現地労働者にも親しまれており、電力・通信会社の社長として、日々忙しいながらも、妻ドーラと幸せな日々を過ごしていた。中国政府からは長年の功績を認められ、英雄として勲章を受けた。
しかし、日本軍の侵攻が上海にもおよんでいたある日、突然ラーベの会社工場付近も、日本軍からの空爆を受ける。現地の欧米人は、上海で市民による安全区域が設けられ、成功を収めたことを聞き、南京でも安全区域を設定することを計画する。安全区域の長としては、日独同盟もあるため日本側との交渉に有利ということで、ラーベが選ばれた。
戦況は厳しさを増し、ラーベは安全区域長として忙殺されることとなる。日本軍側は、南京攻略を前に、捕虜を全て殺害するという非人道的な方針をとり、以後市民に対しても残虐な行為に及んでいく。ラーベは、安全区域に入れなかった者が周囲で残虐に殺害されていく状況で、他の安全区域のメンバーと共に、1人でも多く市民を救うために、安全区域を日本軍側に認めさせるための折衝と、安全区域内の食料、医薬品等の確保等に奔走する。その間、ラーベはヒットラー宛に、日本軍の非人道的な行いをやめさせるように諫言するも、成果は得られない。
日本軍側との折衝に訪れた際に、ラーベの中国人運転手が日本軍人に一方的な言いがかりを付けられ、ラーベの知らない内に処刑場に送られてしまう。運転手の行方を追うラーベは一歩及ばず、目前で運転手が斬首されてしまう。ラーベは、日本軍の残虐さを目の当たりにすることになる。
映画感想(海形マサシ、JanJan 2009/04/13 )
見終わった率直な感想としては、襲う側(日本軍)と、襲われる側の情勢、背景などが、それぞれよく調べた上で、偏りなくリアルに描かれているように思いました。所々、実際の映像や写真が使われているようで、その意味では残酷なシーンも多い(負傷者、遺体等)ので、日本での上映があるならば、確実に年齢制限が設けられるでしょう。
但し、描き方が、事実を淡々と再現している感じで、日本人を糾弾するために作った映画ではないことは、よく伝わってきます。とは言ってもやはり、日本人としてこの映画を見ると、あまりにも残虐な行為の数々と、それを行ったのが日本人であることに、息苦しくなります。
「ジョン・ラーベ」が日本で上映禁止、出演俳優には批判の声も (チャイナネット 2009年3月31日)
中国、ドイツ、日本で上映を予定していた中国、ドイツ、フランス合作の「ジョン・ラーベ」が、日本での公開を断念したことが明らかになった。この中国版「シンドラーのリスト」は、国際的視点で南京大虐殺という歴史的事件を正面から描いていることから、日本での上映は全面的に禁止され、日本の映画配給会社も映画を見ることさえ断ったという。
日本国内で批判の声を浴びているのが、「ジョン・ラーベ」で朝香宮鳩彦親王役を演じた香川照之さんだ。「この役は多くの人の批判を招くと思うが、自分がこの役を演じて経験したことはとても意義がある」と香川さん。また日本国内で上映されないことについては、「日本で南京をテーマとした映画は普通上映できないし、日本人も撮影しない。しかしこの映画が少しでも中国の人たちの苦しみを取り除いてくれるよう望んでいます」と話す。
映画に出てくる朝香宮鳩彦親王は裕仁天皇の叔父にあたる。南京大虐殺で重大な責任を負っていたが、戦後は皇族の身分で軍事法廷に出なくて済んだ。このような非常に敏感な役を、香川さんという日本でもよく知られている俳優が演じたことで、不快感を示す日本の右翼の人も多い。
「ジョン・ラーベ」は4月2日からドイツ、4月28日からは中国、11月にはベルギー、フランス、イタリア、スペインでも上映されることになっている。しかし日本はこの映画に対して沈黙あるいは拒絶の態度をとっていたため、「ジョン・ラーベ」は日本での上映をあきらめざるを得なかった。
「故郷(ふるさと)の香り」と「鬼が来た」などの中国映画に出演したことのある香川さんは、中国の観客にもよく知られている日本俳優の1人だ。去年、国内外で多くの賞に輝いた「トウキョウソナタ」にも出演している。「ジョン・ラーベ」が世界で好評を博した後、日本国内では批判の声が聞かれるようになった。業界の人たちは、どうしてこの映画に出たのかと香川さんに直接聞くこともあり、「プレシャーは相当大きかった」という。
「この映画を見て、本当に日本人は残忍なことを多くしたのだということを知りました。確かにそれを受け入れることは非常に難しい。難しいですが、現代の人たちにこの歴史を語る必要があります。そういう意味では、私は確かにこのようなテーマの映画が好きです」
ガレンベルガー監督は、朝香宮鳩彦親王役を選ぶ際に多くの日本の俳優と会った。しかしほとんどの俳優が出演を断り、最終的に引き受けたのが香川さんだ。「脚本を見た時に、この映画に出るべきだと思いました。その国際的な視点は現代の観客の反省を促すことができるからです。多くの人が、日本人としてどうしてこのような日本人を演じることができるのかと言うかもしれませんが、この役はやはり必ず日本人が演じるべきなのです」