zames_makiのブログ

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手塚治虫のブッダ 赤い砂漠よ!美しく(2011)宗教映画

=単なる娯楽化か、仏教思想の高度な物語埋め込みか
アニメ映画 111分 製作:日本 配給:東映=ワーナー 公開:2011/05/28
制作:東映アニメーション 制作協力:手塚プロダクション 
監督:森下孝三 演出:古賀豪 原作:手塚治虫ブッダ」 脚本:吉田玲子 キャラクターデザイン:真庭秀明 音楽:大島ミチル 主題歌:X JAPAN『Scarlet Love Song』

感想

日本では珍しい宗教映画、「十戒」「ジーザスクライストスーパースター」などと比較できる。仏教の成立をその哲学的思想や、伝統的な出来事羅列ではなく、当時あっただろう歴史的背景の中で劇的に、ドラマチックに、スペクタクルに、人間の生と死と苦しみを前面に見せながら描くものと思われる。原作未読だが、原作よりもより劇化・娯楽化しているように思われる。第1作のみでは全体のメッセージが不明で評価不能である。
 第1作では釈尊は出家せず、冒頭瀕死の聖者を救うため自ら火に飛び込むうさぎのエピソード以外、表だっては仏教の思想はまったく語られていない。3部作全体がこうであるとは思えないが、雰囲気からは表だって思想が解説されないものと推測される。それは逆に言えば映画中で物語のエピソード・たとえ話として仏教思想を示すという事でもあり、その手法は興味深い。本第1作でも、いくつかそれをしていると思われるエピソードはある

  • 最下層民チャプラのなぜ普通の人間になってはいけないのか!という差別に対する根源的疑問の投げかけ
  • 息子チャプラを救おうとかえって身分をばらして共に死に至る母親
  • チャプラを救うため生き物を犠牲にしすぎたとして罰を受ける僧侶の話
  • コーサラ国に対し生き残る為、人殺しを正当化する釈迦国の王の話
  • コーサラ国の王に成り上がった瞬間に死んでしまうむなしさを演ずるバンダカ将軍
  • シッダールタが恋人の命を救うため政略結婚を承諾し恋人を棄てる話

 など、人の苦しみや死を考えさせるためのエピソードは多く含まれている。だが映画自体にそれを考えさせる動機付けや、観客に考えさせる時間を与える隙間はなく、観客が仏教に関する諸エピソードの単なる娯楽化と受け取っても不思議はない。

出演:

チャプラ(堺雅人)最下層民シュードラの奴隷、人間らしい生活を目指し身分をいつわり成り上がり、ブダイ将軍の養子になり権力を得るが、自分を救おうとする母の行為から身分がばれ、母と共に死刑になる。第1作でブッダと対照的な人物として描かれる副主人公
ブダイ将軍(玄田哲章)釈迦国の隣国コーサラ国の勇猛な将軍、瀕死の所をチャプラに助けられる
マリッカ姫(黒谷友香)チャプラと政略結婚するコーサラ国大臣の娘
タッタ(大谷育江)チャプラの幼い頃からの友、動物に乗り移る不思議な力を持つ。最初はチャプラの品物を盗むがやがて共になる、在野にありチャプラを助ける
ナラダッタ(櫻井孝宏)タッタの仲間の僧侶、チャプラが毒で苦しんでいるので高僧に救う方法を請うが、この際多くの生き物を死なせたため罰として、狂人となり荒野をさまよう
チャプラの母&ナレーション(吉永小百合)チャプラが最も愛し救うため成り上がろうとする源、チャプラを愛し、瀕死に際し毒消し薬を持参し、結果的にチャプラが最下層民である事をばらしてしまう

シッダールタ(吉岡秀隆釈尊又はブッダ、釈迦国の王子、なぜ人間が苦しむのか疑問を持つ、幼い頃から人間社会の苦しみの存在に疑問を持ち、下層民の娘を愛するが王により引き離され、無理に結婚させられる、戦争に出るが殺し合いを拒否しすんでで殺されそうになる。長じてついに出家する
ジョーテカ(観世三郎太)幼いシッダールタの友達、一緒に遊ぶが沼に落ち死ぬ
ミゲーラ(水樹奈々)シッダールタの恋人、王により眼を焼かれ盲となる
ヤショーダラ(姫能登麻美子)シッダールタの妻=皇太子妃
スッドーダナ王(観世清和)釈迦国の王、息子シッダールタに力で国を支配する者として成長するよう武人に訓練させる
マーヤー妃(日野由利加)シッダールタの生みの母、産後すぐに死ぬ
バンダカ(藤原啓治)釈迦国の将軍、シッダールタの武術教師、成り上がりパジャーパティ妃(大原さやか)シッダールタの育ての母
を目指し、シッダールタの不調を糧に自分を次の王と指名させるが、即座に戦いで死ぬ
アシタ(永井一郎)シッダールタの誕生を祝福し将来を予言する聖者



【解説】手塚治虫の大作マンガを全3部作で完全アニメ映画化する第1作。のちにブッダとなるシャカ国の王子・シッダールタの葛藤と成長を、彼とは対照的に、奴隷の身分を偽り出世していく男・チャプラの悲壮な運命と共に描き出す。
 争いが続く2500年前のインド。カースト制度が厳しく、身分の低い者は一生にわたって貧しく苦しい生活を強いられていた。そんな中、奴隷の子として生まれた少年チャプラは、愛する母のためにも奴隷の身分を抜け出したいと必死に生きていた。そして、ひょんな巡り合わせから負傷したコーサラ軍のブダイ将軍を助けたチャプラは、やがて身分を隠したままブダイの養子の地位を得ることに成功する。その頃、コーサラ国と対立するシャカ国では、待望の王子シッダールタが誕生、人々ばかりか地上のあらゆる生き物の祝福を受ける。その王子に対し、偉大な聖者アシタは、“この子は世界の王になるであろう”と予言するのだった。
オフィシャル・サイト=http://wwws.warnerbros.co.jp/buddha/

手塚治虫談(シッダルタの教えよりも人間そのものを掘り下げたい)

シッダルタのありがたさとか、シッダルタの教えよりも人間そのものを掘り下げたい。仏陀の生きざまを、ぼくなりの主観を入れて描きたかった。しかし、仏陀の生きざまだけでは、話が平坦になってしまうでしょう。その時代のいろいろな人間の生きざまというものを並行して描かないと、その時代になぜ仏教がひろまったか、なぜシッダルタという人があそこまでしなければならなかったか、という必然性みたいなものが描けません。ですから、仏陀とまったく関係のないような人を何十人も出して、その人たちの生きざまもあわせて描く。
 そのことによって、あの時代にどうしても仏教が必要だったというところまでいきたいのです。そして、仏教と人間が生きるということを結びつけて、一つの大河ドラマ、大げさにいえばビルドゥングス・ロマン(主人公の内面的な人間形成の過程を描いた作品のこと)のようなものを、描きたいと思っています。(1980年、月刊「コミックトム」のインタビューより)