zames_makiのブログ

はてなダイアリーより移行

チェルノブイリでの健康被害論文リスト

以下は<kmiuraによるチェルノブイリでの健康被害論文リスト>を当ブログ作者がコピペしたもの。細部には変更がありその部分の文責はブログ主にある。

=========================

一般的なチェルノブイリでの健康被害に関して短いまとめは、英文ウィキペディアのページ"Chernobyl Disaster"の一項目にまとめられている[2]。日本語訳は数日前になされたこちら[3]にある。1986年のチェルノブイリ原発事故によって大気中に放出された核分裂生成物による健康や環境への影響の報告書として頻繁に参照されるのは、(1)原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)による一連の報告書 [4]と(2)チェルノブイリフォーラム(IAEA、国連のさまざまな機関、ベラルーシ、ロシア、ウクライナ政府によって構成される)による一連の報告書[5]。(1)は、甲状腺癌以外に有意な影響はない、としている。たとえば、肺がんや先天性異常の増加は認められない。甲状腺癌の発生は6000名ほどで、うち死者は500名、としている。(2) はその構成メンバーにUNSCEARを含んでおり、結論は同様。ただし、被曝した60万人のうち、死者4千、としている。また、問題は生理学的な影響よりも、放射線被曝による被害を過大に自己評価することによる精神状態の悪化にある、とも。

こうしたいわば公式報告に反論する報告として、グリーンピース[6]や核戦争防止国際医師会議IPPNW[7]による報告がある。前者は90年から04年の間に、ロシア、ベラルーシウクライナだけで20万人に死をもたらした、としている。後者は、今でも一万人が事故の影響で甲状腺癌であり、今後も5万人への影響が見込まれる、としている。

更に今回2009年チェルノブイリ原発事故による健康被害についての、米国科学アカデミーの論文集では事故による多数の死者を見積もっている。"Chernobyl: Consequences of the Catastrophe for People and the Environment"(2009)[1]。

この米国の論文集[1]の執筆者の一人、ヤブロコフはグリーンピースの報告書の執筆メンバーでもある。これまでカバーされていなかたスラブ語で書かれた論文、資料、ネット上のデータを広汎にまとめあげた内容。1986年から2004年までの間に事故の影響による死亡者数は98万5千人であるとし、UNSCEARやIAEAによる健康への影響は、過小評価であると批判している。

この論文集を分析したレビューとしては、Dreicer(2010)[8]がある。これを紹介する。まず一般論として
(1)膨大な量のデータが紹介されているが、スラブ語圏の論文にかたよっている。
(2)単位などが統一されていない。
(3)健康への悪影響を否定した論文の無視
(4)自分で統計をとったわけではない

科学的な批判としては
(1)いわゆる”線形相関説”の採用。被曝量と発症率を低濃度被曝の領域に外挿することの妥当性。これは10年来、論争にあるが、と断っている。
(2)統計的に被曝量とその影響の相関を検証する疫学的方法論に対して報告者が信頼できないこと。


(kmiuraの意見)
科学的な意味での批判(1)に関して:死者の数の推定が膨大になるのは、これが理由で過大になっているという(レビュー者の)説明はよくわかる。事故による放射線の影響かどうかわからないレベルの低濃度で、死亡したうちの確実にX%は事故由来である、と死亡者数に含めることになるから。kmiuraもいわゆる閾値は存在しないはずがない、と思う(なお、Natureのチェルノブイリ事故20周年に掲載されたコメンタリーにもこの議論にふれている[10])。というのもDNA修復メカニズムやアポプトシス(積極的細胞死)は自然放射線被曝に対する補償としても進化してきたのだから、どこかにある程度の幅をもった閾値はある。要はそれがどこになるか、ということ。年齢、性別、被曝線量率の影響、などを考慮すれば、さまざまなレベルが設定されるべきだが、どのような値か、となるとkmiuraにはなんともいえない。

科学的な意味での批判(2)に関して:統計計算結果を眺めただけなので(なんとも言えない)。ただそうした(報告者のICRPへの)不信に基づいて議論がなされている、とした場合、報告者たちの「悪影響を探り出す」というバイアスがかかっているということは想像できる。したがって、紹介されたデータの報告者による解釈には注意を要する。一方、観測されたデータそのものは注意深く扱うべき。確かに観測、計測されたかどうか、ということをオリジナルの論文、ないしは引用されたプロットを眺めて判断するしかないだろう。測定の部分は、ひとまずは測定した人間を信頼するしかない。

以上のことから、(kmiuraとしては)米国論文集[1]が98万5千人という死亡者数に関しては信頼しないほうがよい。著者たちの結論のみを採用するときにはその結論のもとになっているデータをみながら慎重を期したほうがよい。また、掲載されたそれぞれのデータに関して、反証となるようなデータが未掲載の可能性があるので、この点、自分でそれがないかどうかさがして比較したほうがよい。ただ、これまで英語圏で未発表だったデータのプロットや表を虚心坦懐に眺めるためにはよい。

アクセスできる人はNatureのコメンタリー(2006)[10]を読むことをすすめる。チェルノブイリからまだ20年しかたっておらず、広島・長崎の被曝の影響が40年、50年後にはじめて顕著に現れたケースなどを考えれば、今後にチェルノブイリの影響が観測される可能性がある、としており、そのことがタイトル副題" Too soon for a final diagnosis"になっている。

=========================
(引用)
IAEA、WHOなど公式見解)
[2]英文ウィキペディアでの健康被害の要旨:http://en.wikipedia.org/wiki/Chernobyl_disaster#Assessing_the_disaster.27s_effects_on_human_health

[3]英文ウィキペディアの日本語訳:http://logo-syllabary.cocolog-nifty.com/blog/2011/03/wiki-assessing-.html

[4]国連科学委員会(UNSCEAR)報告書:UNSCEAR's assessments of the radiation effects(2005?) http://www.unscear.org/unscear/en/chernobyl.html#Health

[5]IAEAチェルノブイリフォーラム報告(2002):http://www-ns.iaea.org/meetings/rw-summaries/chernobyl_forum.asp



(自然団体などによる批判的報告書)
[6]グリーンピース"The Chernobyl Catastrophe - Consequences on Human Health" (2006).http://www.greenpeace.org/international/Global/international/planet-2/report/2006/4/chernobylhealthreport.pdf

[7]核戦争防止国際医師会議IPPNW報告:"20 years after Chernobyl ? The ongoing health effects" (2006), http://www.ippnw-students.org/chernobyl/research.html



(2009年米国アカデミー論文集、およびそれへのレビュー・批判)
[1]米国報告書"Chernobyl: Consequences of the Catastrophe for People and the Environment"(2007, 2009) http://www.nyas.org/publications/annals/Detail.aspx?cid=f3f3bd16-51ba-4d7b-a086-753f44b3bfc1、報告書PDF=http://www.strahlentelex.de/Yablokov%20Chernobyl%20book.pdf

[8] Book Review: Chernobyl: Consequences of the Catastrophe for People and the Environment (2010, Mona Dreicer) http://ehp03.niehs.nih.gov/article/fetchArticle.action?articleURI=info%3Adoi%2F10.1289%2Fehp.118-a500

[10] Natureのチェルノブイリ事故20周年に掲載されたコメンタリー Chernobyl and the future: Too soon for a final diagnosis Nature 440, 993-994 (2006) doi:10.1038/440993a http://www.nature.com/nature/journal/v440/n7087/full/440993a.html

<放射線の健康影響リスクを強く憂慮する本>

主な主張者;

島薗進(医学者の姿勢)、矢ヶ崎克馬(内部被曝)、クリス・バズビー(ECRR)、肥田舜太郎(黒い雨)、沢田昭二(黒い雨批判)、広河隆一(ジャーナリスト)、小出裕明(反原発)、今中哲二(チェルノブイリ調査)、西尾正道(北海道ガンセンター)、武田邦彦(反原発煽り)、崎山比早子(元放医研)近藤誠(医師)松井英介(医師)福島大学原発災害支援グループ(FGF)早尾貴紀(避難促進)

放射線リスクを強く恐れる本)

◇共同研究広島・長崎原爆被害の実相 沢田昭二ほか 新日本出版社 1999=左派学者による市民目線の放射線被爆調査、入市被爆など、黒い雨調査していないの指摘
◇日本の疫学:放射線の健康影響研究の歴史と教訓 重松逸造 医療科学社 2006=政府系正統派学者による広島&チェルノブイリ疫学調査まとめ、調査内容怪しい
×見えない恐怖:放射線内部被曝 松井英介 旬報社 2011.6=ECRRそのまま引用で中身ないが一般に支持されていない
◇封印されたヒロシマナガサキ:米核実験と民間防衛計画 高橋博子 凱風社 2008

チェルノブイリから広島へ 広河隆一 岩波ジュニア新書 1995=ジャーナリスト視点で調査の足りなさ、国家的思惑の疑惑
◇悪夢の医療史:人体実験・軍事技術・先端生命科学 / W.ラフルーア他,島薗進勁草書房, 2008
◇隠された被曝 矢ヶ崎克馬 新日本出版社 2010

×チェルノブイリ:虚偽と真実 L.A.イリ−ン 重松逸造・長瀧重信監修 長崎・ヒバクシャ医療国際協力会 1998=規制側の書きよう
チェルノブイリ事故による放射能災害:国際共同研究報告書 今中哲二編 技術と人間 1998=大著で難しい、直接批判しない
×死にいたる虚構:国家による低線量放射線の隠蔽 ジェイ・M.グールド他著 肥田舜太郎他訳 大島社会文化研究所 1994=断片的な放射線リスクの強調データ
×死にすぎた赤ん坊:低レベル放射線の恐怖 E.J.スターングラス 肥田舜太郎時事通信社 1978=昔の本

放射線被ばくの社会的評価:チェルノブイリ事故から学ぶ 内山正史他編 放射線医学総合研究所 1997
◇低線量内部被曝の脅威:原子炉周辺の健康破壊と疫学的立証の記録 ジェイ・マーティン・グールド 肥田舜太郎他訳 緑風出版 2011.4
内部被曝の脅威:原爆から劣化ウラン弾まで 肥田舜太郎 ちくま新書 2005
□隠された被曝: 矢ヶ崎克馬 新日本出版社 2010.7
放射線の健康への影響 / 大朏博善. -- ワック出版, 2006

GHQによる原爆被害の隠蔽について

・原爆調査の歴史を問い直す:原爆被爆者の放射線影響調査に関する科学史的研究(科研費報告書) 柿原泰ほか(NPO市民科学研究室・低線量被曝研究会) 2011.3→http://blogs.shiminkagaku.org/shiminkagaku/report_atomicbomb_history_201103.pdf(目次)
NHK番組「封印された原爆報告書」2010年8月6日
・封印されたヒロシマナガサキ:米核実験と民間防衛計画 高橋博子 凱風社 2008.2
・Suffering Made Real: America Science and the Survivors at Hiroshima、M. Susan Lindee. University of Chicago Press, 1994
・米軍占領下の原爆調査:原爆加害国になった日本 笹本征男. 新幹社, 1995
放射線被曝の歴史 中川保雄 技術と人間, 1991(坂本慎一)

チェルノブイリ

チェルノブイリ」を見つめなおす / 今中哲二,原子力資料情報室. -- 原子力資料情報室, 2006.4

チェルノブイリ事故による放射能災害 / 今中哲二. -- 技術と人間, 1998.10

チェルノブイリ周辺住民における甲状腺がん乳がん疫学調査 / 柴田義貞,長崎大学. -- [柴田義貞], 2002-2004

チエルノブイリ原発事故の精神身体的影響に関する疫学調査 / 柴田,義貞,長崎大学. -- 2001-2002

チェルノブイリ原発事故による放射能被爆住民における膀胱がんの発生 / 福島昭治,大阪市立大学. -- [福島昭治], 2000-2003

ベラルーシウクライナ、ロシアにおけるチエルノブイリ原発事故研究の現状調査 / 今中,哲二,京都大学. -- 2000-2002

チエルノブイリ原発事故後の小児白血病発症に関する研究 / 小池,健一,信州大学. -- 1997-1999

放射線被ばくの社会的評価 / 内山正史,藤元憲三. -- 放射線医学総合研究所, 1997.3. -- (NIRS ; M-117)

(重松逸造)

日本の医療と疫学の役割 / 森岡聖次,重松逸造. -- 克誠堂出版, 2009.2

(低線量被曝・疫学)

□疫学辞典 / Miquel Porta[他]. -- 第5版. -- 日本公衆衛生協会, 2010.7

□低線量放射線の健康影響 / 近藤宗平. -- 近畿大学出版局, 2005.9

低線量放射線の健康影響に関する調査 / 近藤宗平. -- 核融合科学研究会, 2003.5

□21世紀の原子力放射線問題. -- 放射線教育フォーラム, 2002.11
放射線疫学研究の新しい展開 / 稲葉次郎,中村裕二. -- 放射線医学総合研究所, 1997.3. -- (NIRS ; M-119)

原子力発電施設等放射線業務従事者等に係る疫学的調査. -- 放射線影響協会, 2010.3

(原爆調査)

□原爆放射線内部被曝による健康影響に関する調査研究. -- [小佐古敏荘], 2005.3→東京

□原爆放射線の健康影響の評価に関する研究. -- [甲斐倫明], 2007.3→東京

原爆症調査研究事業報告書. -- [厚生労働省], 2008.8

原子力関係者のための放射線の健康影響用語集 / 「低線量放射線の影響と安全評価」研究専門委員会. -- 日本原子力学会, 1992.6