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映画「八月十五日の動乱」

<映画「八月十五日の動乱」>

(2022年夏の戦争映画)
映画「八月十五日の動乱」1962年 東映見る。終戦詔勅をめぐる陸軍若手将校の反乱を描く歴史劇だ。ドラマチックな事件の経緯を見せるのが主眼であり戦争に関する主張(戦争反対など)は明示的でない、だが視点が平和指向であるのは明確で、それは同じテーマの2015年作とは異なる。このテーマでは半藤一利の「日本のいちばん長い日」(1965年出版)が原作、映画とも大ヒットして経緯が日本社会に定着したが、本作はそれ以前であり後半は事件経緯が異なる。

このテーマは既に本作で3回目、東映でも2回目であり、主役を鶴田浩二にして後半に創作を加えて劇映画としての魅力を加えたものと推測される。監督は小林恒夫、脚本は高岩肇東映の主流である。

主人公を首相秘書官である鶴田浩二とし政治側=いかに平和を作るかの視点で映画を動かす。半藤作の映画化では反乱将校視点となり、彼らの猛々しさが映画的な見せ場となってるのと対照的だ、戦後リベラル視点であり、まともである。
だが東映でも1967年以降、繰り返し映画化した特攻隊映画では好戦的な若手将校を視点にした。また終戦詔勅テーマが参照される1974年の「あゝ決戦航空隊」では鶴田浩二が戦争継続を主張し、最後は凄まじい自決場面を見せるのと視点がまるで逆である。東映がそうした一見好戦的な戦争映画作りになっていった原因は思想的な物か観客動員の為かその他かは、分析が必要だろう。

冒頭B-29の空襲と焼野原と化した東京を特撮で見せてるのが珍しい、続いて原爆で3男が死に観客に戦争継続した軍部への怒りを掻き立てている。戦後16年経過した公開当時、これらの描写は観客に当時を想起させる相当な効果があったのではないだろうか。また御前会議の天皇は椅子だけしか見せない。

脚本家が創作した点は主役を首相秘書官・陸軍若手反乱将校・移動演劇隊員の架空の3人兄弟とし、アクションと兄弟対決で政治への陸軍反乱部隊の敗北を視覚化し見せている点だ。鶴田浩二の主人公は首相秘書官だが憲兵に尋問されても逆に睨み返すようなどうどうたる主役で、物語の視点が平和指向なのは明確だ。弟の陸軍反乱将校は江原真二郎であり、猛々しく戦争継続を主張し徹底的に悪役として描かれている。物語前半は政治動向を描くが、後半は玉音盤をめぐる争奪アクション劇になっており、首相秘書官鶴田が玉音盤を持って宮内庁を逃げ回る。更にラストは玉音盤を持ってNHKにやってきた鶴田を反乱将校が殺そうとするが、弟の将校江原が鶴田を助けて撃たれるとしており、活劇で反乱軍の敗北を示している。

本作の映画としての評価は難しい。2022年の視点では後半の創作アクション劇は事実と異なり白けるし、主題は既知でありかなり退屈な映画と言わざるを得ない。日本の戦争映画ではこうした同じエピソードを何回も映画化した例が多く、それらは近年の作の方がより大作で・工夫があり・ヒットした物が多く、本作のように昔の作を意図的に当時の視点で見るのは不可能だ。

そうした点を考えた本作の場合、それでも当時既に同じテーマで3回目なのを創作を加え魅力を増して見せてる訳だ。なので当時はそれなりに盛り上がったというべきだろう。だが新しい物はあまりないのであり当時の視点の評価でも「まあまあ」ではないだろうか。

 

物語:空襲で荒廃した東京、焼け跡に残る家に兄弟が住む。長男は首相秘書官だ、そこへポツダム宣言が出たとの電話が来る。次男は陸軍将校で徹底抗戦派、3男は広島へ移動演劇隊に旅立つ。広島に原爆が落ち3男は死ぬ。長崎にも原爆が落ち、長男の仕える鈴木貫太郎首相は最高戦争指導会議でポツダム宣言の受諾による終戦を図るが、陸軍大臣阿南の強い反対で決定できない。陸軍省では次男らの若手将校が阿南陸軍大臣に蜂起への同意を求めるが阿南は拒否する。

 長男の首相秘書官はポツダム宣言受諾に向け政府高官と会うが憲兵が何を画策してるのかと難詰してくる。天皇終戦を決めてもらおうと御前会議が開かれるがそこでも若手将校の邪魔を警戒し、秘書官は時間繰り上げを宮内庁に頼み込む。

 御前会議で終戦が決定され玉音盤が吹き込まれる。それを知った若手将校の反乱軍が皇居を守る近衛連隊長に談判するが反乱に同意せぬ指揮官を射殺し、宮内庁を占拠する。弟らの反乱将校は玉音盤を探すがみつからない。そこへ来た兄の首相秘書官は弟を説得しようとするが決裂する。兄は兵のすきを見て脱走し、宮内庁の女官の部屋に潜んでいる侍従長に会い、玉音盤を持ち出す相談をする。女官の急病を理由に宮内庁専属医師を呼び寄せ、患者に化けて脱出する。だが気づいた反乱将校が追跡してきて、玉音盤を抱えた兄の秘書官は宮内庁の厩などを逃げ回る。ついに追い詰められた時、騒ぎに気付き宮内庁に平定に来た陸軍高級将校に救われる。

 その時既に8月15日正午の放送間近だ、兄の秘書官はNHKに玉音盤を持参するが弟らの反乱将校に阻止される、兄は強行突破しようとして狙撃されそうになるが、敗北を認めた弟の将校により救われる。無事玉音は放送され弟は自決する。

 

<参考:8月15日の終戦決断を題材にした映画>

○1952.05.01 終戦秘話・黎明八月十五日 東映東京 監督:関川秀雄/脚本:八木保太郎・西沢裕/主演:岡田英次河野秋武  …終戦詔勅をめぐる争い

○1954.10.25 日本敗れず 新東宝 阿部豊/館岡謙之助/早川雪洲、藤田進 …終戦詔勅をめぐる争い、敗戦裏面史

○1962.08.22 八月十五日の動乱 東映東京 小林恒夫/高岩肇鶴田浩二江原真二郎 …終戦詔勅をめぐる争い

□1965年出版 本「日本のいちばん長い日」半藤一利 文藝春秋新社 

○1967.08.03 日本のいちばん長い日  東宝 岡本喜八橋本忍三船敏郎松本幸四郎高橋悦史 …終戦詔勅をめぐる争い

〇2015/08/08 日本のいちばん長い日 松竹=アスミック 原田眞人原田眞人山崎努本木雅弘松坂桃李 …終戦詔勅天皇鈴木貫太郎の悪だくみ、天皇崇拝映画


(参考)
○1974.09.14 あゝ決戦航空隊  東映京都 山下耕筰/笠原和夫野上龍雄鶴田浩二池部良小林旭 …特攻隊作成経緯と8/15の自決

〇1980.2.25 歴史の涙(TBSの長編TVドラマ) 今野勉/大津皓一/小林桂樹終戦詔勅をめぐる争い、印象なし

〇2010.8.7 日本のいちばん長い夏 NHK 倉内均/倉内均/木場勝己半藤一利が本を書くきっかけになった座談会、面白くない