zames_makiのブログ

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最前線物語(リコンストラクション版)(1980)単なる厭戦映画

原題:THE BIG RED ONE 映画 110分(再編集版162分) 製作国:アメリカ 日本初公開:1981/01/31  再編集版製作:2004、再編集版上映(米):2005/02/05、再編集版DVD発売(日):2005
監督:サミュエル・フラー 脚本:サミュエル・フラー 音楽:ダナ・カプロフ 編集:Morton Tubor 再編集版編集:Bryan McKenzie
出演:
リー・マーヴィン(軍曹)主人公、第一次大戦で欧州を経験、厳しく寡黙
マーク・ハミル(グリフ)部下の二等兵、若くナイーブ
ロバート・キャラダイン(ザブ)部下の二等兵、常に葉巻をくわえた作家志望で監督の分身、作家出身
ボビー・ディ・シッコ(ビンチ)部下の二等兵、イタリア系でイタリア語を話す
ケリー・ウォード(ジョンソン)部下の二等兵
ジークフリート・ラウヒ(ドイツ軍軍曹)十字架に隠れて奇襲するが失敗、ドイツ降伏後に投降するが軍曹に殺されそうになる、ドイツの敗北を象徴する付加的人物

感想

低予算でかつやる気のない演出のつまらぬ戦争映画。星2つ。監督の実体験を描いた反戦的なものとして一部の評論家が誉めてるが、体験をそっけなく描いただけであって別に戦争が悪い・反対する・やめるべきだと言っている訳ではない。また映画冒頭の終戦後にドイツ兵を殺してしまう後悔混じりのシーンも、映画中盤では同じ場所でドイツ兵が自分たちを騙そうとしたのを見破ってやったぞ、という勝利の凱歌に転じさせており、戦争での理由なき大量殺人を後悔する姿勢は映画にはまったくない。自伝での言葉を参照すれば、映画が言いたいのは戦争とは無意味な殺しの連続であって兵士はただ単にそこで生き残るために殺し続けるだけだという事だろう。しかし映画では最後にユダヤ人やドイツ兵を助けたりと、いかにも偽善的な意味を持たせようともしており、監督自身の語る「ただ戦争体験を語る」事さえできていないと思われる。結局出来あがったのは下手くそで面白くない普通の戦争映画というべきだ。

 監督は第二次大戦をアフリカ戦線からドイツ侵攻まで経験しており、映画はほぼそれにそってエピソードを並べたものだ、しかしエピソード間の脈絡がなく全体としてまとまりがなく映画全体として何を見せたいのか観客には不明だ。加えてエピソードが奇抜で、好戦的でなく、だらしのない、現実には起こりえないような珍しいもの、が選ばれており真偽も含め解釈も感情移入もしにくい。加えて低予算のためセットや撮影場所が簡略化され実際にはあり得ぬような場所が多く非現実感をましている。これらの非現実感は映画を舞台劇のようにも見せる。このため観客は演出の意図を推測する動機にかられ、奇抜でだらしのないエピソードがまるで戦争への抗議と受け取られたのであろう。しかし監督の自伝(「サミュエルフラー自伝」2015年)によれば多くのエピソードは事実であり、監督の主旨は体験をそのまま描くことにあったようだ。
 それにしても演出もまずく監督の腕の悪さ、映画としての出来の悪さが目立つ。全体にありのままを見せるという演出上の意図が明確でなく単に投げやりなだけであってこれが観客に混乱を招いている。例えばノルマンディー上陸作戦の場面では、残酷な体験・死体・死が間際にある状況での兵士の行動を描きたいようだ。体験とは「腕時計のついた腕が海を漂ってきてぞっとした」「体がバラバラの死体の中を走ったり頭を死体に突っ込んだ」「頭をあげれば撃たれるような砂浜で立ち上がって演説する事」だが、映画では、普通の戦闘シーン、腸の出た死体、立ち上がり演説してから命令する指揮官、海水に洗われる腕にはめられた腕時計のクローズアップで構成されておりこれでは意味不明である。死体や腕時計は体験した残酷さのほんの一部でしかないし、指揮官の行動の危険性や異常さも映画では分からない。低予算と監督の粗い演出感覚がこの未熟なつまらぬ映画となったと思われる。

 再編集版のエピソードを以下に示す、この内○印は短縮版にもあるもの。更に短縮版ではエピソードはあるもののシーンが短くなっているものが多い。ここで自伝で事実として書かれているのは、アルジェ海岸の抱擁、去勢用の地雷、ノルマンディー上陸時の戦闘、小説を読む兵士、妊婦の出産、精神病院、ベルギーの酒場、ドイツ少年兵の尻、収容所の焼却炉などである。
 サミュエル・フラー監督の死後公開された再編集版は短縮版に比べ、1時間近くも長いが、エピソード毎の雰囲気・演出は同じで、単に長さの理由で割愛したフィルムを戻しただけの印象が強い。1980年の短縮版製作時に4時間半の編集済みフィルムがありここから製作したので基本的に同じ映画となっているのではいだろうか。2つは基本的には同じ映画であるが、短縮版はエピソードが少なく主人公の戦争体験が抜粋し「演出」されている感覚が強いこと、最後のドイツ兵殺害のシーンが短くなり冒頭シーンや中盤の十字架シーンとの対応が不明なため唐突に終わる感じがより強い。そのため物語としてのまとまりが一層曖昧で公開時には海外で評論家の勝手な推測を招き、好評を得たのではないだろうか。
 自伝によれば1960年代に大手映画会社ワーナーがこの映画の製作に興味を示し、主演はジョン・ウェインを提案してきた。しかしフラー監督がウェインを軍曹役に起用すれば単純な戦争映画になってしまうと、起用を断わるとワーナーは映画自体にも関心を失ったという。これは「最前線物語」の構成自体は普通の娯楽的な戦争映画と何も変わっておらず主役が「それらしい」俳優であればそれとして受け止められると評価された事を示している。このエピソードを思えば結論としてこの映画には3つの可能性があったのではないか(1)普通の娯楽的な戦争映画、(2)体験をそのまま描く禁欲的な戦争映画、(3)ある種の思想や意思を暗に主張する芸術的な映画、ワーナーが目指したのは1、フラー監督が作りたかったのは2、短縮版公開時に欧州の評論家が思ったのは3だったと思われる。上記のごとくフラー監督に演出の腕はなく、筆者の評価は2であったのが失敗して、下手な1になった、という見方である。

<エピソード羅列>
○・第一次大戦の欧州、十字架のある戦場、若き日の軍曹は停戦後と知らず投降してきたドイツ兵を刺し殺す
○・アルジェリア海岸での上陸、迎えるフランス軍は当初抵抗するがやがて降伏、両者はだきあう
○・アルジェリアで軍曹につきまとう現地少女
○・ヒトラーをけなすドイツ兵がドイツ軍上官の軍曹に射殺される
○・ドイツ軍戦車の急な侵攻に地面に穴を掘って逃れる、捕まった軍曹はチュニスのドイツ軍病院で治療を受けるが同性愛のドイツ人医者にキスされる。そこへアメリカ軍が助けに来る(短縮版は同性愛はない)
・ローマの円形闘技場に潜むドイツ軍戦車をフランスの騎兵が攻撃しやっつける
○・シチリア島で古参兵から名前を覚えてもらえない召集兵が去勢用の地雷にやられ負傷する
○・シチリア島で洞窟に残ったアメリカ兵が侵攻してきたドイツ軍に囲まれ洞窟に入ってきたドイツ軍だけを片端から殺し友軍の砲撃で生き残る
○・シチリア島で母親の埋葬をしようとする少年と交渉、棺桶の代わりに案内させ潜むドイツ軍自走砲を裏側から撃破、勝利した後に現地の老婆から歓待の食事を受ける
○・アメリカ兵は花をヘルメットにつけ進撃する
・前出のドイツ軍軍曹がパリで夫をドイツ軍に殺されたフランス女からマッサージを受け古傷を列挙、その中には花をヘルメットにつけたアメリカ兵から受けた銃撃もある
○・ノルマンディー上陸作戦で突撃順に死んでいく召集兵、突撃せぬと殺すと脅かす軍曹、腸の出た死体、銃撃を恐れず立って指揮する指揮官(短縮版では攻撃シーンまで死体や腕時計はない)
○・フランスの前線で主人公の書いた小説DarkDeadlineを読む兵士と会い喜ぶ
○・十字架のある荒野で破壊されたドイツ軍戦車、前出のドイツ軍軍曹がドイツ兵を配置し罠をしかけるが、軍曹が見破り逆に全滅させる
○・レジスタンスのサイドカーにのった妊婦の出産を戦車の中で行う、弾帯とコンドームを使う
○・ベルギーでドイツ軍の潜む精神病院をレジスタンスの助力で攻略、銃を手にした患者が撃ちまくって殺すので狙撃する
・ベルギーの森林で戦闘、外傷はないのに心臓発作で死んだ兵士
○・ベルギーの酒場で死んだ兵士のために大金で馬鹿げたパーティーを開く
・ベルギーの酒場でアメリカ軍兵士に紛れ込んだドイツ軍兵士
・前出のドイツ軍軍曹が、フランスの城で戦争は負けだと嘆くドイツ貴族婦人を殺す
・ドイツの戦闘で捕まえた敵狙撃兵は少年なので尻を叩いて叱る、最初はヒトラー万歳と叫ぶがやがて父さん助けてに変わる
○・チェコユダヤ人収容所を解放、死体焼却炉に隠れたドイツ軍兵士を臆病だったアメリカ軍兵士が射殺、更に銃弾を撃ち込む
○・収容所から助けだした少年は軍曹の肩の上で死ぬ
○・軍曹は投降してきたドイツ兵を刺し殺す、それは停戦後だったのであわててドイツ兵を助ける

チリの闘い(1975〜1978)

原題:LA BATALLA DE CHIL
製作:チリ 公開:2016/09/10 ドキュメンタリー
監督:パトリシオ・グスマン
公式HP宣伝文=http://www.ivc-tokyo.co.jp/chile-tatakai/

上映 PFF

『チリの闘い』全3部一挙上映
2017年9月22日12:30 PM@大ホール
1975−1978(チリ=フランス=キューバ)(監)パトリシオ・グスマン
70年代前半、世界で初めて誕生した社会主義政権の政府と崩壊を記録した、“史上最高のドキュメンタリー映画”と称される驚異の傑作。目を疑うような歴史と、民衆の凄まじいパワーに、高揚感と震えが止まらない!